a day under the tree

はじまりの花

KAKASHI×SAKURA

 

 


すきなこと、すきな時間。

晴れた日のお散歩。

甘いお菓子。

たあいもないおしゃべり。

すきな人の後姿。

すきな人の横顔、声、手。

すきな人のすべて。

すきな人のことを考えている時間。

夕暮れどきの川原。

そよそよと頬をなでる風。



あの木の下の特等席。

 

「あーあ」

ひざを抱えて、口をとがらせながら、きらきらと光る川面をみつめていた。

ひとりで今日の反省会。

うまく話せなかったこととか、目を合わせてもらえなかったこととか、うるさい邪魔が入ったこととか、一日に起こったことを思い出しては、ため息をつく。

視線を上にやると、木の枝を厚く覆う葉が、さやさやと触れ合い音を立てながら、薄い陰を落とし始めていた。

夜が来る。

……夜はきらい。

さっきまで見えていたはずの道を隠してしまうから。

さっきまで追いついていたはずの背中を遠ざけるから。

夜は私を足止めするから、きらい。

すっと立ち上がって、輝きが失せ始めた水面に向かって叫ぶ。

「夜なんか来るなー!!」

なー、と少しこだまして、すぐにあたりは静けさに包まれた。

「はあ……」

何やってんだろ、と肩を落としたとき。

 

「んー……」

びくっとして振り返る。

太い木の幹は重い色のままそこに立っている。

「どした? サクラ」

「えっ…!?」

木が、しゃべった??

などと思うまでもなく、声の主のカケラが姿を現した。

読み古された本の端がちらりと見えた。

「カカシ先生?」

「ん」

正解、を一言に代えてカカシ先生がひょいと顔を出した。

「どーしちゃったのよ」

にこ、と笑う片目につられて、私もにこ、と笑い返したけど、さっきの叫びを聞かれていたと思うと、少し顔がひきつった。

「別にぃ」

ふい、と顔をそむけて空を見る。黄昏時のオレンジは、すでに薄紫色に侵食され始めている。

「……夜はきらいなの」

「はは、そうか。きらいかー」

パタン、と本を閉じる乾いた音がして、振り返るとそこにいたはずのカカシ先生の姿はなかった。

「カカシ先生?」

幹の向こう側に回り込むと、そこはただの闇だった。

「サクラ、こっち」

声の方向に視線をやると、さっきまでの私の特等席にカカシ先生は立っていた。

にこ、ともう一度微笑むから、さっきよりは自然に、私もにこ、と返した。

 

ザザザ……

 

ざわざわと葉擦れの音が回り始めた。その音はどんどん大きくなって、どんどん渦を巻いて、私を包み込んだ。

「なっ……何!?」

ふっ、と焦点が二重になって、次にはっきりと見えたものは−−−

 

藍色の夜空にくっきりとざわめく……桜。

それはざわざわと音を立てながら、空を埋め尽くそうとしている。

「げ……幻術?」

私の問いに答えるかのように、桜は白い雪となって、吹雪のように舞い落ちた。

まるで子守唄のように、それはあたたかく、私の心を通り過ぎていく。

「……きれい」

じわりと滲んだ視界がとらえた、鮮やかな月明かり。

 

ああ、こんな素敵な夜もあるんだ。

こんなにもくっきりと、すべてが見える。そんな、夜もあるんだ。

 

「そろそろ解いちゃっていーよ」

遠くでカカシ先生の声が聞こえた。

それでもまだ目の前には無数の桜の花びらが舞い続けている。

ずっとこの渦の中にいたい。

ためらいながら、ゆっくりと幻術を解いた。

「解っ!!」

 

すうっと、鮮やかな桜は暗闇に吸い取られた。

ただの藍色の空を見上げたまま、消えた花びらの残像を探した。

「サークラ」

すぐ側で、その声がして、視線を下ろす。

 

目の前には、はじけそうなくらいに咲きほころんだ桜の花。

 

「……これは?」

「ん? 桜」

 

にこ、と微笑んだカカシ先生が持っていた桜の枝。

幻術が解けても、消えない桜。

自然と、顔がほころんだ。

「……ありがと」

 

「さて、そろそろ帰るぞ」

「うん!」

 

春は好きなんだよね、と先生は言った。

桜の枝を夜空にかざしながら、どうして? と聞くと、先生はまたにこ、と笑った。

今日は笑顔の大サービスだ。

 

桜が、夜道を照らしてくれるから。

サクラがね。

そういって最後にもう一度、笑った。

 

私も、少しだけ夜が好きになれたような気がした。

 

 

fin  2007.04.02 zono




 

*初カカサクです。カカサクというか、サクラの思い人はまだ別の人ですが。
じわじわと何かが変わっていくような、そんな感じを出してみたかったのです。

 

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