a day under the tree 10

リリィ

KAKASHI×SAKURA

 

 


「……特にケガをしているわけでもないので、たっぷりと睡眠を取って体を休めたら、あとは大丈夫です」

「……よかった……! 綱手様、もう安心ですね」


どこか遠くから話し声が聞こえる。


シズネさんと……師匠もいるのかな?


「よかった? これがよかったと言うのか?」


ああ……怒ってるよね、綱手様。
あれだけ注意するように言われたのに、結局みんなに迷惑かけてしまったし。


本当に、ごめんなさい


目が覚めたら一番に謝らなくちゃ。


「すまなかったな、カカシ。お前まで巻き込んでしまって」


……カカシ先生もいるの?


「いえ……相手はただの幻術使いでしたから。さほど恐れることもないでしょう」

「そうか……嗅覚を操るというのもやっかいだな」


「嗅覚をたどり潜在意識の感情を引き出す、一種の自白剤のような術です」


そっか私、幻術にかかっていたんだ。


「なるほど……奴ら、何か情報を集めているのかもしれないな」

「私もそう思いました……おそらく……」


一瞬の間。
カカシ先生と綱手様は、無言の中に何かを確認し合っているようだった。


「火影様」

「なんだ?」

「……ナルトが帰ってくるまで」

久々にナルトの名前を聞いて、なぜか心臓が大きく脈打った。

「ナルトが帰ってくるまで、サクラは私の隊には入れないでください」


……なんで……?


サクラの心を代弁するかのように綱手が聞き返した。

「なぜだ?」

一度大きく脈打った心臓は、次第に速度を増して、サクラの耳元でドクドクと音を立てていた。

「今のサクラは」

一瞬の沈黙。

「……私の隊には足手まといです」

その一言で、サクラの耳元からすべての音が消えた。

否定しようのない事実に、悔しさも悲しさも通り越した虚無感があった。

「そうだな、まだサクラをお前の隊に入れるのは早いな。もうしばらく私の目の届くところで様子を見るとしよう」

綱手も納得したように答える。
「任務以外の面倒をかけてしまったな、カカシ」
「お気になさらず」

遠ざかる声を聞きながら、それに背を向けようとするが、体はまだ動かない。
半分夢の中にいるような気だるい感覚の中でサクラは考える。

……自己嫌悪

結局一人じゃ何にもできないって、思い知らされた……

カカシ先生に余計な負担もかけて

私はまだまだ半人前で、

先生は、超がつくくらい一流の忍なんだ……


……遠いよ……


再び意識が遠のいていく中、ひとすじの涙が流れたような気がした。






入り口では綱手たちを見送ったカカシが振り返り、静かにサクラを見つめていた。


……守ってやるだけならどれだけでもできる

でも、今のサクラはそれじゃダメなんだ

ひとりで、自分の力で強くならなきゃいけない

感情に押し流されず、どんな状況でも冷静でいられるように

だから、今は一緒に任務に行く時期ではない

サクラのためにはそれが一番いい


静かに扉を閉め、カカシはサクラのベッドまで戻ってきた。
穏やかに眠っているサクラは、顔色もよく、頬がほんのりと赤く健康的に見える。


「……サクラのため、か」


オレ自身のために、だろう?


そう問いかけて、カカシは目を細めた。


いつの間に、こんなに特別な存在になっていたのか


「感情に押し流されず、どんな状況でも冷静に……」

あのとき、頭の奥がヒヤリとした。
それと同時に体温が上がるのを感じた。

自らの任務のことも忘れて、サクラのことしか頭になかった。



「……上忍、失格だな」


体をかがめて、静かにサクラの顔をのぞき込む。


「強くなれ、サクラ」


強くなれ


「ナルトが帰ってきたら、一緒にサスケを探しに行こう」


サクラは規則正しい寝息を立てている。

目尻からひとすじ、涙の跡。

「だから……」

 

強くなってくれ、サクラ



ふいに、本に挟んであったしおりのことを思い出す。

取り出して、そっと指で触れてみる。

言いようのない苦しさを抑え込むように、その小さなしおりに語りかけた。

 

「それまでオレは、遠くから見守っているよ……」

 





リリィ  END



zono 2010.01.04




*二人の気持ちが近づいたのは、ほんの一瞬でした。やはりサスケの存在は大きい。

story