a day under the tree 4

そういう感情 So, you can joke...

KAKASHI×SAKURA

 

 


穏やかな午後。
女の子が3人集まれば、絶え間ないおしゃべりの花が咲く。
その大半は好きな男の子の話になってしまうのは、ごくごく自然なこと。

決して広いとはいえない甘味処の、窓際の一番風通しのいい席で、任務を終えたサクラは自分へのごほうびとして、大好きな白玉あんみつを幸せそうにほおばっていた。
そんなサクラを少しあきれながら見ているのは、同期のいのとヒナタ。

「よく食べるわねー……」
「いいの! 任務でかなりカロリー消費してるんだから」
「ナルトくんもかなり疲れてたみたいだね……」

任務終了後の報告で第7班、第8班、第10班が偶然居合わせた。
ナルトはシカマル、チョウジ、キバとそろって一楽へラーメンを食べに、用事があったシノは少し残念そうに家路を急ぎ、カカシはアスマと紅に報告書作成へと連れ去られていった。
残ったサスケにサクラといのは競って声をかけたが、つれない態度でサスケも姿を消した。
その一部始終を静かに見ていたヒナタを誘って、まだまだ初々しいくの一たちは甘味処へとやってきた。

「ホントにすごかったの!」

ほおを膨らませながら「波の国」で起きた出来事を一所懸命に話し続けるサクラに、いのとヒナタも真剣な視線を向けていた。会話の中に現れる思い人の姿をひとつ残らず拾い上げるために。

「サスケくん、活躍したんだね。いいなぁ〜、私も見たかった」

ふふ、と得意気にいのを見て、サクラは「いいでしょ〜」と自慢した。

「でも……みんなすごいね。あっという間に強くなって」

ヒナタはあえて「みんな」とぼかして感心したようにうなづいた。

しかし、サクラがどれだけ言葉を尽くして話しても、あの壮絶な闘いを伝えるにはあまりにも語彙と表現力を要した。
それがもどかしくて、サクラはとにかく「すごかった」とか「びっくりした」を繰り返した。

「ふーん……なんか想像つかないけどね。そんなに強いんだ、あんたんとこの先生」
「カカシ先生? そりゃあ、敵の手配書にも載ってるくらいだし」

片手で頬づえをついていたいのは、サクラを見ながら少し間をおいて、そしてニヤッと笑った。

「ねえねえ! サスケくんじゃなくってカカシ先生にしたら?」
「は!? 何言ってんの?」

口に運ぼうとしたスプーンから、するりと寒天が落ちた。ぽかんと口を開けるサクラを見て、いのはここぞとばかりに続けた。

「だってあんたの話、確かにサスケくんのことばっかりだけど、それに負けないくらいカカシ先生の話してるんだもの」
「そ、そんなの当たり前じゃない! だって一番闘っていたのはカカシ先生なんだから!」

慌てて否定すると、静かにヒナタが核心をついた。

「サクラちゃんの話、サスケくんが5ならカカシ先生は4で、ナルトくんは……1かな」
「きゃはは!」

いのが笑い出すとサクラは次の言い訳を一所懸命に考えたが、どうしてもそれ以上は出てこなかった。

「いいんじゃない? 先生強いし、大人だし。まあビジュアルも私が見る限りではイケてると思うし?」
「だったらいのがカカシ先生にすればいいじゃない!」
「私はサスケくんだもーん」

しゃーんなろー! どう考えてもいのはライバルを減らしたくてそう言ってるだけだわ!

「いのずるい!」
「知らない」
「カカシ先生は強いから、すごいって思ったりするのは当たり前じゃない! それにあのときナルトだって強くなって、少しドキッしたりしたんだから」
「えっ!? サクラちゃんがナルトくんに?」
「あ、違う、だから〜」

説明しようとすればするほどから回りしていくサクラを、いのはさらにからかい、ヒナタは不安気に見ていた。

「あーっ! だからもうっ!」

バンッ! とテーブルを叩くと、まだ少し残っていたあんみつが器からこぼれたが、サクラはお構いなしに少し立ち上がって大声をあげた。

「私はカカシ先生にはそういう感情は持ってないの!」

店内が一瞬で静まり、誰もがサクラに注目していた。いのとヒナタは凍りついたままサクラを見上げる。


「んー、それは残念だなあ」


静まり返った空間に間の抜けた声が響くと、ざわっと音を立ててまた空気が流れ始めた。

「か、カカシ先生!?」

気配もなく、いつのまにかテーブルのそばに立って、カカシはにこにこと笑っていた。

動けなくなってしまったサクラのそばで、いのはばつが悪そうに片目を閉じ、ヒナタはおろおろしてサクラとカカシを交互に見た。

「サクラ、忘れ物」
「えっ?」

ポン、とテーブルの上に置かれたのは、サクラの財布だった。

「何? あんたお金も持たずにあんみつ食べてたわけ〜?」

話題を変えるチャンスとばかりにいのが突っ込んだ。

「ま! 会計前に間に合ってよかったな」

ニッと笑うと、カカシはそのまま「じゃ」と言って店を出て行った。
テーブルに手をついた姿勢のまま、サクラは何も言えないまま固まっていた。

な、何? あのあっさりとした感じ……。
もうちょっと何か言ってくれないと、冗談にもならないじゃない。


「なんか、気にも留めてない感じだったね……」

ヒナタがおそるおそるそういうと、いのは堰を切ったように笑い出した。

「あははは! あんた相手にもされてないってことなんじゃない?」
「な、何でそうなるのよ!?」
「まあ、サクラもそういう感情がないって言ってるんだから、別に問題はないでしょ?」
「それは、まあ……そうだけど」

なんだか釈然としないまま、サクラは難を逃れて器の中にとどまった残りのあんみつを食べ切って、 勢いよく甘味処を飛び出した。

そりゃあ、確かに先生は大人だし、私が何言ってたって、子どものおしゃべりみたいにしか思ってないのかもしれないけど……。

ずんずんと歩みを進めるうちに、サクラはいつの間にか里の外れの大きな木の下まで来ていた。何かあったとき、自然とここに足が向いてしまう。サクラが一人になりたいときによく来る場所。

「あ……」

サクラは思わず足を止めた。
先約は今一番会いたくないような、でも会いたいような人物だった。

「カカシ先生」

小さな声でつぶやいたので、カカシは気づかずに大きな幹にもたれかかったまま本を読んでいる。
サクラはしばらくその場に立ったまま、遠くからその様子を見ていた。

ふと、いのの言葉が頭をよぎる。

−−ビジュアル的にはイケてると思うし?

くすっと笑いがこみ上げる。

ビジュアルって言ってもねー。額あてとマスクで普段は右目しか見えないのにね。

少し伏し目がちになったカカシの横顔をしばらく見つめていると、なぜか心が穏やかになっていくのを感じた。

……不思議と落ち着くのよね。カカシ先生って。なんか安心できる。

「まあ、私よりずっと年上だし、でもそんなにしっかりしてないし、なーんかどこか間の抜けた感じが逆に和むのかなぁ……」

あえて言い聞かせるように声に出してみた。

一度、強く風が吹いて青々とした枝が大きく揺れると、さっきの甘味処のように、ざわざわとあたりがにぎやかになった。

「んー? サクラ、どしたー?」

ようやく気配に気づいたカカシは、そう言ってにっこりと笑った。
そのいつもと変わらない感じが、サクラをほっとさせた。

「えっと、あの……」

サクラは言葉に困りながら近づいて、少し遠慮がちにカカシの隣に腰を下ろした。

「お財布……ありがと」
「ん? もうちょっとで無銭飲食になるところだったなー」

本からは視線を動かさないまま、カカシは笑っていた。

「それと、あの……変なこと言ってごめんなさい」
「はは、サクラの頭の中がサスケのことでいっぱいなのは、よーく知ってるぞ?」

そう言って、カカシはサクラの頭をぽんぽん、と叩いた。それがまた、サクラを温かい気持ちにしてくれた。

「で、でもね、先生」
「ん?」
「先生はずっと年上で、私から見たら十分オヤジだし、いっつも遅刻ばっかりしてきて上司としては全然なってないと思うし、なんか変な本読んでるし」

愛読書を閉じて、カカシは眉を下げ、困った表情でサクラを見た。

「うーん、いきなり何なんだろう、この言われようは……」

所在なげに頭をかいて、困り顔のまま笑っているカカシ。

「でも、でもね? 波の国で先生が闘っているのを初めて見て、正直驚いたっていうか、すごかったって言うか……カカシ先生ってこんなに強いんだって思ったの!」

そう力説するサクラに、「うれしいけど、結構こたえる逆接だな、これは」と笑うカカシ。

「本当なの! だから……だから何て言うか、カカシ先生のことすごく尊敬できたし、先生の班でよかったって本当に思ったの!」

あまりにも力を入れて一気にしゃべったものだから、サクラは両手を強く握りしめたまま、カカシの鼻の先まで顔を近づけていた。

「はは、ありがとう」

少し照れながらカカシはもう一度頭をかいた。サクラは慌てて離れると、カカシの隣でひざを抱えて小さくうなづいた。

ざわざわと、枝葉の揺れる音が心地いい。

「んー、それにしてもそんなこと言われるとなぁ……」
「ん?」

はは、ともう一度軽く笑ってから、カカシはいつもの笑顔であっさりと言った。


「サクラのこと、好きになっちゃうぞ?」




風は強くなって、うるさいくらいに木々が騒ぎ始めた。

「しまったなー……」

まだ冗談の通じる年齢ではなかったと、カカシはさっきのサクラへの発言を少し後悔した。
真っ赤な顔で逃げるように去っていったサクラが、それでも何だかかわいらしいと思えたのは、子どもをからかう大人の心境なのか、それとももっと別の何かなのか。

木々のざわめきはそんなカカシを笑っているようにも、責め立てるようにも思えた。

「いじわるな大人だ、まったく」

まあ、それもまた一興とカカシは何事もなかったように再び本を開いたのだが、当のサクラはと言うと……。

どうしようどうしよう!? ちょっとドキッとしちゃった……。これって何? 私ってカカシ先生のこと……。

走りながらサクラの頭の中は自問自答のパニック状態になっていた。

で、でもでもでも! 波の国のカカシ先生は本当にすごかったんだもの! それに、ナルトにだってちょっとときめいたりしちゃったし……。

はた、と足を止めて、サクラは頭を抱えた。

うそ!? 私ってもしかしてものすごい浮気者? サスケくんが好きなのにカカシ先生にもドキドキして、ナルトにも!?

「いやーっ! どうしよう!?」

そう叫んで再び全速力で走り出す。走って走って、息があがってもまだ、サクラは走り続けた。
まるで心の邪念を振り払うかのように。


「サクラのバカーッ!!」


その声は木の葉の里のあちこちで響いていた、らしい。





そういう感情 So, you can joke... END



zono 2007.09.23



 




 

*サクラ→サスケでかつカカサクって難しい〜! タイトルはちょっとひっかけてます。この年頃の女の子の揺れ動く乙女心ってかわいいですよねー(笑)。

 

story