Just Talkin' to Himself 3
SANJI on ZORO × NAMI
君の泣くじゃくる姿を初めて見た。 あまりにも突然、君は泣き出した。 「ねえナミさん、夢だけを追いかけていくのはつらいかい?」 ちょっと意地悪をしただけのつもりだった。だって、君は僕とアイツをあまりにも比べすぎる。アイツにないものを僕に求めすぎる。 「サンジ君といると、とっても楽。イライラしないし、怒ることも悲しくなることもない」 それは、アイツといるとイライラするし、怒ってばかりだし、悲しんでばかりだってことだろう。じゃあ君の笑顔はどこへ行ったんだい? アイツといれば、君には特別な笑顔があるんじゃないのかい? ……そうだよ。僕と一緒にいれば、君を悲しませることなんて絶対しない。いつも側にいてあげる。不安にさせることなんてない。欲しい言葉をいつでもあげる。 それでも、アイツじゃなきゃだめなんだろ。 君は「夢」に縛られすぎている。アイツがたったひとつの夢にあまりにもまっすぐにつき進んでいるから。だから君は不安になるんだ。君の夢とアイツの夢の行き先が、いつか交わる日が来るのかどうか。 「こんなことなら、あのとき村に残ればよかった」 そう言って君はまた大粒の涙を流す。そうだね。その方がよかったのかもしれない。君の笑顔はだんだん失われていった。昔のような悲壮感はなくなったけど、今は不安に押しつぶされそうになっている。そんな君はもう見たくない。それならいっそあの村へ戻って、毎日笑って過ごして欲しい。心からそう思った。 思ったはずなんだ。 でも、僕は君を抱きしめた。君の小さな頭が僕の腕の中にすっぽり入ってしまった。頬をつけると、君の体温が流れてくる。君の髪はやわらかくて、そして温かい。何の抵抗もなく、僕に身を任せている君を、このまま僕のものにできたらどんなにいいだろう。離したくない。 でも、僕は僕を演じ続けている。いつの間にか与えられた、君の「理解者」という役柄を。 「夢はひとつじゃないんだ」 君がのぞめば、夢なんていくつでも持てるさ。だから僕の小さな、ささやかな夢を教えてあげる。 「この小さくて弱い航海士が心から笑ってくれる日がまたくること」 解き放たれたように、君はまた涙を流した。僕の腕の中で、静かに、それでも強く君の夢が息づき始めたんだね。 「ありがとう、サンジ君」 君が生まれ変わったような気がした。その新しい息吹を感じたくて、僕は思わず君の瞼に口づけた。ほんの少しだけ、君は震えていた。 君の笑顔が見たいだけ。それだけなんだ。君が笑っていてくれたら、それが僕の理由になる。だから、教えてあげればいい。アイツがどれだけ強く君のことを思っているのかを。そうすれば君はきっと笑ってくれる。 でもそれはやっぱり、僕が一番言いたくない言葉なんだ。
* * *
朝食なんて食う気がしねぇ。食卓の準備は済ませ、自分には濃いめのコーヒーを入れた。食堂に人が集まる前に甲板に出て朝の光を浴びた。風が気持ちいい。 昨日はあまり眠れなかった。ハンモックの中で何度も体を動かしたけど、宙に浮いた体の頼りなさに不安になった。 オレはどうなるんだろう。どうしたいんだろう。 そんなことを考えてしまうのも、きっと−−−−−−−−− 風を正面から受けながら、消えそうなタバコをくわえている。昨日の雨が嘘のように、空は青く、太陽の光が海面に乱反射している。 ナミさんが今日、笑っていてくれますように。 そんなことを考えながら、タバコを海へ落とした。それは風に揺られて、何度か旋回し、そして力無く水の中へ消えた。 無機質な金属音が微かに聞こえた。振り返ると、そこには緑頭のクソ剣士が立っていた。微動だにせず、片耳につけたピアスだけが風に揺られて時々音をたてる。まっすぐな目でオレを見ている。迷いのない、力強い目だ。 そうか、また確かめ合ったんだろ? お前たちの不器用な気持ちをぶつけあったんだろ。わかったからもういいよ。今、オレの前にその顔を見せるな。 「……用がねぇならどっか行け。オレは今一人になりてぇんだ」 それでもまだクソ剣士は立ったままオレを見ていた。その姿がやけに誇らしげに見えて、オレはイライラした。 「なんだよ、あぁ? 昨日のことか?」 そうだ、という顔をした。言葉にしろってんだ。だからナミさんが不安になるんだろうがよ。 「ナミさんにキスしたことなら謝らねーぞ。あれはオレへのご褒美だ。怒るよりむしろ感謝しろ」 そうだろ? ナミさんを慰めたのも、お前にハッパをかけたのも、オレなんだぞ。 「あァ……」 伏し目がちにクソ剣士はそれを肯定した。オレは驚いて思わずコーヒーカップを落としそうになった。お前がオレに感謝してんのか? それを、認めるんだな、お前は。 オレは急に得意気になり、腕を組んでクソ剣士を見た。 「くやしいんだろ?」 あァ? と一瞬オレを睨んだが、クソ剣士はすぐに歯を食いしばるような表情で口を歪めた。 「……お前には何でも話すんだな」 そう言って遠くを見つめる。そうだ、くやしいだろ? オレはナミさんの一番の理解者だ。お前なんかよりずっとナミさんの気持ちをわかってやれる。 オレもくやしいんだぜ。 ナミさんの気持ちがわかればわかるほど、自信がなくなっていくんだ。オレのどんな優しい言葉も、どんなに温かい抱擁だって、彼女の笑顔を引き出すことができないんだぞ。それなのに、お前はナミさんの欲しい言葉を持っている。彼女が求めるすべてをお前は持ってるじゃねぇか。どうやったって、オレはお前にはなれねえ。それなのに、彼女の求めているものだけはわかってしまう。それを与えられない者の気持ちがお前にはわかるか? たった一言でも、彼女は「オレ」じゃなく「お前」のそれを待っている。 責任、持てよ。お前が、ナミさんの笑顔を奪ったんだぞ。お前が彼女を不安にさせるから。 せめてオレに彼女の笑顔を見せてくれよ。それくらいはいいだろう? オレがここにいる「意味」も「理由」も、お前が奪う権利なんてないんだ。 本当は、認めてなんていねぇよ。お前にナミさんを任せてなんていられねえよ。だからオレが彼女の側にいる。ナミさんが、いつも笑っていられるように。涙を流さないように。オレは彼女を「お前」から守る。ナミさんが、お前に傷つけられないように。 どんなに気持ちが通じていたって、どんなに一緒にいたって、どれだけ抱きしめても、どれだけキスをしても、きっとお前はナミさんを、
泣かせることしかできないくせに。
END 2003.6.2 zono
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