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trance or ecstasy 7


MARCO × ACE



その日の夕焼けは、不気味なほどに美しかった。

ホテルに戻ってシャワーを浴びた後、ホテルのテラスラウンジで海を眺めながらビールを飲んでいた。
夕陽が沈んだ直後の空は紫に近いピンク色に染まり、流れる雲は深い青の陰影を作り出している。そして、それを映し出すコバルトブルーの海も、うっすらとピンク色を装い、白く泡立つ波は不思議な中間色を保ちながら形を変えていく。
「今日の夕焼けはきれいですね」
いつかのウェイターが、いつの間にかオレの側に立って笑いながらそう言った。そして、聞いてもいないのに、話し始めた。
「この島で一番夕陽がきれいに見える場所をご存知ですか?」
返事をする代わりに首を傾げると、ウェイターは穏やかな笑みをたたえたまま、遠く海の向こうへと視線を流した。
「西のエリアに、小さな山があります。そうですね……先日お客様が儀式をご覧になった村の近くです。その海側の高台に、それはそれはきれいな夕陽が見られる場所があるそうですよ」
ウェイターの話を聞きながら、オレは目を見開いた。
それは明らかに、いつかエースがオレの手を引いて連れて行ってくれた、あの場所のことだった。

”今度、ここで一緒に夕焼け見ような”

そう言いながら眠りに落ちたエースの声が、頭の中で聞こえたような気がした。

「残念ながら、今は私有地になっているので誰でも行けるわけではないようですが、私も小さい頃に一度だけ連れて行ってもらいました。その美しさは今でも覚えています」
やけに饒舌に話し続けるウェイターに、オレはふと尋ねてみた。
「なァ、またその場所へ行ってみたいとは思わねェのかい?」
「どうでしょうか……子どもの時のことですから、今見たら案外こんなものかって思うかもしれませんし……あの時は確か、旅行者が村に来て、その場所へ行ってみたいと言ったので、父が案内したんですが、私たちも来ていいと言われて喜んで付いていったんですよ」
「へェ……美しい思い出は美しいままの方がいいってことかよい」
「でも、その旅行者は妊婦さんだったので、結局険しい道が多くてその場所までは行けなかったんです。ちょっと残念そうでしたが、子どもが生まれたら一緒に見に行きますって」
「妊婦……?」

”ここ、オレの好きな場所”

エースはどうやって、あの場所を……?

「その、妊婦ってのは……まさか日本人じゃ?」
するとウェイターは人懐こい笑顔で、静かにうなずいた。同時にどくん、とオレの心臓が大きく動くのがわかった。
「はい。ご夫婦でいらしていたようですが、ご主人の方は一度もお目にかかりませんでした。でも、奥様の方は村の雰囲気が気に入ったのか、よく遊びに来てくださって、村の首長とも仲良くなって、生まれてくる子に名前を授かったくらいなんですよ」
「名前……?」
首長とは、昼間会ったあの白い髭の老人のことだろうか? いや、あいつはオレが権利者の名前を見せても何の反応も示さなかった。しらばっくれたのだろうか?
「残念ながら、首長は10年前に亡くなりましたが」
オレの心を読んだかのように、ウェイターはさらりと言った。
「あんたはその名前を知っているのかよい?」
どくん、どくんと心臓が脈打っている。オレは、おそらく自分が立てた仮説の「不確定要素」に迫りつつあるのだと、そう確信した。
しかし、ウェイターは少し困った表情で首を振り、「ビールのおかわりお持ちしますね」とビジネスライクな態度に戻った。
「首長から名前を授かる時は、他人は一切立ち会えないんです。それに、この島では本名は使わないのはご存知ですよね? みんな自由なニックネームで呼び合いますから」
そう言い残して、ウェイターは風のように去り、そしてビールを運んで来ると何も言わずに戻っていった。
ウェイターは30手前といった年齢だろう。彼が子どもの頃、といえばおそらく20年は前の話のはずだ。
つまり、20年前にあの西のエリアを気に入って訪ねてきた日本人夫婦がいて、その妻の方は妊婦だった……。
おもむろに胸ポケットからペンを取り出し、コースターの裏に書き殴る。あの西のエリアの権利者の名前。

Wayan Abadi Cerah Eksistensi

「……二重国籍」

何で、気付かなかった?

勢いよく立ち上がると、グラスに残っていた手つかずのビールが振動でこぼれたが、もうそんな事には構っていられなかった。
どくん、どくん……と心臓は激しく鳴り続けている。指先まで震えてきた。
部屋に戻り、必要なものを引っつかむとオレはタクシーを掴まえて、PARTYS BARに向かった。
窓の外はすっかり暗くなり、分厚い雲が空を覆っているのが見えた。スコールが来るようだ。
苛立ちと震えを抑えるために、爪を噛む。

”なあマルコ! あのさ、今日……”

その続きを遮ってしまった自分は最低だと思う。エースは知っていたはずだ。今日の夕陽が格別に美しくなるということを。
約束したわけではない。でも、オレに見せたいと、オレと一緒に見たいと言ってくれたエースの気持ちを無下にしたのは確かで。

今、オレは何のためにPARTYS BARに向かっている?

エースを傷つけていたのなら、それを詫びるために? それとも、オレの仮説を裏付けるために?
どっちが先でどっちが後なんだろうか? どっちが本心で、どっちが口実なのだろうか?
もはや、「会いたいから会いに行く」という衝動ではない。

オレは、エースが何者なのかを知りたい。ただ、純粋に知りたいのだ。

その理由は……。

「グエッ!!」

PARTYS BARに入るなり、鳥のマルコがオレの元へ飛んできた。
肩に留まるかと思いきや、マルコは鋭いくちばしでオレの頭を突いてきた。
「おい、何すんだよい!? 痛ェだろい!」
両腕で頭を防御すると、鳥のマルコはもう一度「グエッ!」と鳴いて、外に飛び出して行った。

「あーあー、エースがお怒りだぞ」

ギロリ、と声の方向を睨むと、相変わらず酔っ払った赤髪が肩をすくめながらオレを見ていた。
カウンターではマキノが少し遠慮気味にこちらを見ている。
「そういや、逆鱗に触れたら追い出されるんだっけなァ……」
「まあ、よく取り入った方だと思うけどな。ここに来るヤツは端っから濁った目をしていたが、お前だけは違ったから、見込みはあると思ったんだ」
すべてを知ったような口ぶりで赤髪は目を細めた。それは、オレの仮説が正しいということを意味しているのだろう。
「オレは別にエースに取り入ろうとしたわけじゃ……」
そこまで言いかけて、オレはため息と共に肩の力を抜いた。

オレは、何も知らずにここへやって来ただけだ。そこに、エースがいた。ただ、それだけなのだ。
ホテルのビーチに突然現れて、村の儀式で炎を操っていた「神の子」で、夢の中にまで出てきた謎の少年が、偶然にもここにいた。

……これは、「偶然」なのだろうか?

「なあ、そろそろ答えてくれないか? お前は敵なのか、それとも味方なのか。オレもぼちぼち日本へ帰ろうと思ってな」
カウンターにほおづえをついて、赤髪は空になったグラスの中で氷をカラカラと回しながら聞いた。
「そうだな……」
背を向け、扉に手をかけてオレは振り向かずに言った。
「もし、このままオレがここへ戻って来なかったら、敵だと思ってくれていいよい」
「そうか、わかった」
赤髪の素っ気ない返事を背に受けて、オレは店を出た。湿気を含んだ生温かい風が首元にまとわりついてくる。スコールが近い。
背丈ほどの雑草をかき分け、視界が開けると、目の前には深い青をたたえた海が広がっていた。昼間のコバルトブルーはすっかり身を潜め、夜の色に染まった海は、水平線の辺りで別の世界に繋がっているようにも思えた。
岩場を降り、砂浜を一歩ずつ進むと、波打ち際に見えるのは、褐色の肌とその背中に刻まれた「神聖なるもの」。
大きく目を見開いたそれは、そのまますべてを飲み込んでしまいそうなほどに力強く牙を剥き出しにしている。
「グエッ」
肩に留まっているのは、鮮やかな青い鳥。

「マルコ」

突然名前を呼ばれて、思わず足を止めた。しかしそれは"マルコ"違いだということにすぐ気付いた。
「スコールが来るから、巣に戻ってろよ」
すると、青い鳥は大きく羽ばたいて、濃紺の空に鮮やかな光を放つように飛んで行った。
その間、エースは一度も振り返らなかった。

「……今日の夕陽はきれいだったんだろうな」
「知らねえ」

動かない背中に声をかけると、間髪入れずにくぐもった返事が返ってくる。
こちらに向けられているのは、怒りを露わにしたような表情の「神聖なるもの」。
「見てねェのかよい?」
「……」
「オレは見たよい」
すると、ぴくりと肩を動かして、エースは振り向きかけたが、すぐに肩を丸めて膝に顔をうずめた。
「確かに驚くほどきれいだったが、きっとお前の好きなあの場所で見たら、もっときれいなんだろうって思ったよい」
一歩進むと、サラリ、と音を立てて砂が流れる。静かに打ち寄せている波とは違う、心地よい音。
「エース……オレはちょっと今日イラついてて、お前の目を見て話す勇気がなかったんだよい。お前に目を覗き込まれたら、心の奥まで見透かされちまうんじゃねェかって……それくらいオレは邪なことばかり考えていて、正直後ろめたい気持ちしかなかったから、お前と距離を置いてしまったんだよい」
「なんで」と聞かれてもいないのに、オレは言い訳を並べ立てる。こんなことを言ったところで、エースには通じるはずもないのに。
「……マルコの日本語わかんねえ」
その一言で、オレの言葉はすべて無駄になった。そして、沈黙を埋めるのは波の音だけ。
「オレも……お前が何考えてんのか全然わからねェよい」
頭をがしがしとかき乱してため息をつくと、やりきれない感情が一気に溢れ出てくるのがわかった。
「突然海から現れたかと思えば、神の子とか言われて、炎の中で踊り狂ってて……あげく人の夢にまで出てきやがって、今度は目ェ覚ましたら目の前にいたり、風みたいにいなくなったり、鳥にはオレの名前をつけるし、ケモノ道を歩かされてどこかもわからない場所へ連れて行かれたかと思ったら、ひとりで先に帰っちまったり……お前は一体何なんだよい?」
半ばやけくそになってそこまで言い切っても、返ってくるのは虚しい言葉だけ。
「……何言ってるかわかんねえよ」
「少しぐらいは……チッ!」
ついに舌打ちまで出てしまうと、エースはそれに反応してぴくりと肩を動かした。
「……Wayan Abadi Cerah Eksistensi」
今度ははっきりと、エースは顔を上げた。それでも、振り返ることはなく、ただ、まっすぐに海を見つめていた。
「この国での、お前の名前だろい? さっき気付いた……頭文字を拾っていくと”ACE”になるってなァ……この国で生まれた日本人なら、名前が二つあってもおかしくねェんだからよい」
海外で生まれた子どもは、日本と、生まれた国の二つの国籍を持つことができる。
二十歳を迎える時、最終的にどちらかの国籍を選ばなければならないのだが、エースはまだ19歳で、二重国籍の状態なのだ。
「この土地は、お前の物だ、エース。そうだろい? オレは、それが知りたくてここへやって来た。そしてそれは達成された。だから、これでオレの仕事は終わりだ」
そう言うと、エースはわずかに顔を動かし、震える声で言った。
「……日本に、帰るのか?」
「お前が帰るなって言ってくれたら、オレはここに残るよい」
口に出してから、自分でも驚いた。そりゃそうだ。あんなに早く帰りたいと願っていたはずなのに。

この土地の所有者はエースだ。オレは、それをドフラミンゴに伝えさえすればいいのだ。
西のエリアは、日本の不動産王の隠し子かもしれないガキが権利を持っていた、と。
それでドフラミンゴがどう動くかなんざ、オレには関係のない話だ。オレは今後一切あいつの仕事は受けるつもりなどないのだから。

「仕事は終わりだよい、エース。だから、今度はオレのために教えて欲しい……お前が何を考えて、何を感じて、何を恐れて生きているのかを、教えてくれないか?」
すらすらと言葉が流れ出てくる。そして、胸の奥からこみ上げてくるのは、欲情にも似た熱いモノ。

ああ、オレはそれが何か、今ようやくわかった。

「お前の好きなものを、全部オレに見せてくれよい」

そう言ってそっと黒髪に手を伸ばす。くしゃりと指に絡んできた髪は柔らかく、撫でる度に温かみを増す。
そして流れてくるのはやはり、あの甘い花の香り。
「なァ、エース? オレの目を見てくれねェか? もし、濁って見えるなら、オレはおとなしくこの島を出るからよい」
何度も頭を撫でてやるとようやくエースは振り返ってオレの顔を見た。少し涙目のおびえた表情で。
「……」
しばらくの間、エースは何も言わずにオレの目の中を覗き込んでいた。同時に、エースの中にもオレの姿が映っている。
灯火にも似た炎がひとつ、ふたつと揺れているその中に、まるで命を与えられたかのようにオレが存在しているのだ。
そして、ふわりと風を起こすように、そばかすの目立つ頬を緩めてエースは笑った。
「マルコの目、やっぱりこの海と同じ色。すっげえきれいだ」
その言葉に、オレは心の中で安堵のため息をついた。この特異な瞳の色をきれいだと言われて嬉しいと思えるのは、それを言ってくれるのがエースだからだ。

この青い目でよかった、なんて、生まれて初めて思った。

じわりと視界が潤み始め、オレは一度うつむいて何度かうなずいて見せることでそれを誤魔化した。
そしてエースはさらに顔を緩めると、白い歯をはっきりと見せてニカッと笑った。

「オレ、マルコが好きだよ」

ぽつり、と大きな雨粒がオレの額に落ちると、眉間から鼻筋を通り、顎を伝って流れ落ちた。スコールが始まった。
「マルコの目の色がすげえ好き。あと、においもな!」
そう言ってエースはオレの首元に顔を埋めて、大きく息を吸い込んだ。
「ほらな! すげえいいにおい。それと……」
間隔をせばめて降り落ちてくる雨粒は容赦なくオレとエースの髪を濡らしていく。
南国のスコールは生ぬるく、そして激しい。
バケツをひっくり返したような量の雨が落ちてくると、あっという間に二人とも全身ずぶ濡れになってしまった。
「それとな? えっと……何て言うんだろ。オレの体、熱い。マルコの、熱くない」
「……体温のことかよい?」
「そう、それ! タイオンな!」
そう言って、オレの脇に腕を滑り込ませ、エースはぎゅうっと抱きついて来た。一気に熱い体温が流れ込んでくるのがわかる。
「マルコのタイオン、気持ちいい。すげえ好き」
「……ふっ」
においとか体温とか、動物じゃあるまいし。
「言うことがいちいち野生児だよい」
「ヤセイジって何?」
「お前みてェなのを言うんだよい」
そしてそれ以上は答えず、オレもエースの体を強く抱きしめてやった。何も身につけていない上半身は焼けるように熱く、鼻を埋めた黒髪からは太陽のにおいがする。そして、首元からは強烈なほどの甘い花の香り。この二つが鼻孔を突くと、何か欲情にも似た熱いモノが体の中を駆け抜けていくのがわかる。

そうだ、オレはこの少年に恋をしているのだ。

いい年をしたおっさんが青臭いことを、と笑われるかもしれないが、初めて経験したこの感情を的確に表している言葉はこれしかないのだ。
オレはいつも「特別」だった。「特別」なのだと、自分に言い聞かせてきた。だから人よりも早く、精神が成熟してしまったせいで、思春期に出会う様々なものを気付かずに通り過ぎてきたのだろう。
何をやっても満たされないまま年を取り続けて、自分では達観しているつもりだったが、単にオレは人としてあるべき感情の欠落した、不良品に過ぎなかったのだ。
オレがなぜエースに惹かれたのか。どうして衝動的に会いたくなったのか。今さらその理由を並べ立てる必要などない。

年甲斐もなく恋をした中年男が、初めての感情を持て余して迷走していた。簡単に言えばそういうことだろう。

「エース……オレもお前が好きだよい」
そう言って、黒髪に熱い息を吹き込むと、エースはくすぐったそうに体をよじらせて、へへっと笑った。
「この黒髪も、褐色の肌も、そばかすも、熱い体も、背中のタトゥーも、その黒い目も、オレの名前を呼んでくれる声も……全部好きだよい」
叩きつけるような雨は、髪を流れ、まぶたの上を通り過ぎるときに少しだけ温かくなった。
「マルコ、泣いてる?」
少し心配そうに、エースはオレの目を覗き込んできたが、オレは口元だけで笑って「まさか」と言った。
「……ちょっといろんなモンが出てきてるだけだよい」
「ふーん?」
「だから、もう少し……いいか?」
その返事を聞くことなく、オレはエースの体を強く抱きしめた。するとエースもそっと背中に手を回してくれた。
焼けるような肌に雨が落ちると、白い蒸気がゆらゆらと上がっていく。それは、何か汚れた物が浄化されていくような、神聖なもののように思えた。
そうだ、彼は「神の子」だった。
このまま雨に打たれて、すべてを洗い流してもらえたら、オレは生まれ変われるだろうか。
この海のように透明で、純粋で、子どものように素直な気持ちに戻れるだろうか。

「エース……!」

しがみついた体からは、熱い体温がどんどん流れ込んでくる。
オレは何度もエースの名前を呼んだ。そして、エースもオレの名前を何度も呼んでくれた。
スコールは、あらゆる穢れを洗い流してくれる。

「なあマルコ? 本当に日本に帰らないで、ここにいてくれるのか?」

雨が小雨に変わった頃、エースが小さな声でつぶやいた。
「言っただろい? お前が帰るなって言ってくれたら、オレはここに残るって」
「オレが……?」
ようやく顔を上げたエースの表情はひどく戸惑っていて、彼のボキャブラリーでは決して表現できない感情がはっきりと表れていた。
エースはわかっているのだ。その言葉の重みを。それを口に出すことの責任を。
拙い日本語しか話せなくても、中身は19歳の成人間近の男なのだ。不用意な発言で、誰かの人生を変えてしまうことの怖さを知っているのだろう。
オレは穏やかに笑って、その黒髪をわしゃわしゃと撫でてやった。たっぷりと髪に含んだ水が飛び散って顔にかかると、訳もなくおかしくなって、オレは声を出して笑った。
「心配するな……どっちにしてもすぐに帰ったりはしねェよい」
「そっか、よかった!」
ホッとした様子で、エースもすぐに頬を緩めた。

「グエッ!!」

雨上がりの鈍い色の空を、鮮やかな色の鳥が羽根を広げて優雅に、ゆっくりと飛んできた。
「マルコ!」
エースはオレの元から駆け出すと、青い鳥に向かって両手を伸ばした。
鳥はふわりと一度風に乗り、静かにエースの腕の中へと収まった。
「はは、マルコくすぐってえ」
黄色いトサカを何度も何度もすり寄せて、青い鳥とエースは恋人同士のようにじゃれ合っている。
それは一枚の絵のようで、誰にも邪魔できないひとつの完成された世界を作っていた。

それを見て、胸が締め付けられるのをはっきりと感じた。

これは、嫉妬だ。

オレは嫉妬している。
エースの愛情を独占できるあの青い鳥は、「特別」な存在だから。

「マルコ、戻ろうぜ!」

そう言って、エースは青い鳥を肩に載せて砂浜を歩いていく。
その後ろ姿を目で追いながら、もはや隠しようのない様々な感情に、オレはただ立ち尽くすことしかできなかった。

エースがオレを好きだと言ってくれたその感情にウソがないことはわかっている。真っ直ぐで純粋な言葉。

……でも。

オレは、お前の「特別」にはなれないのだろうか?





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