パーフェクト・スター パーフェクト・スタイル epilogue
ZORO x NAMI
「ハッピーウェディング!!!」
ビーチが目の前に広がる高級ホテルのプールサイド。
「世紀のビッグカップル」と呼ばれた二人の結婚パーティーは、それはそれは盛大に執り行われた。
オレたちは3日前にドバイに到着して結婚式にも参列したが、親族友人のみの質素な式だった。
とはいえ、式を挙げたのは世界一高いビルの展望台だったが。
ルフィの爺さんが号泣していたのがやたらと印象に残っている。
そして今日までの間、オレたちは大学時代のようにつるんで遊びまくった。
クルーズに出たかと思えば砂漠を車でぶっ飛ばし、ビーチでスイカ割りまでやった。
白亜の砂浜に、どこまでも続く透明な海。近代的なビル。
ドバイはすべてにおいて度肝を抜くスケールだった。
日も暮れないうちにオレたちが酒盛りを始めると、ナミとロビンはショッピングに出かけた。
ホテルは5つ星だか7つ星だか、とにかく超高級ホテルのスイートルームに泊まった。
コックとウソップは、二人一緒の部屋にされて、最後まで文句を言っていたが、ロビンがそういうカップルもここには多いから気にするなと言って笑っていた。
オレとナミも、ビーチが一望できるスイートルームに通された。
ナミは天蓋付きのベッドやら、ガラス張りのジャグジーにはしゃいでいたが、オレが「ラブホテルみてェだな」と冗談で言ったら、グーで殴られてその後しばらく口をきいてくれなかった。
もちろん、その分は夜にしっかりと挽回したわけだが。
パーティーには、想像以上の人が集まり、予想したとおり、経済界やら学術界の大物たちが揃っていた。
世界中のVIPがルフィとロビンを囲み、談笑している。何が驚いたって、ロビンはともかく、ルフィが流ちょうな英語で話していることだった。
「4年間、遊んでたわけじゃねえんだな……」
ウソップが少し寂しそうに言った。
「財閥を継いだら、そう簡単には会えなくなるだろうだな」
コックも、タバコをふかしながらつぶやく。
「ここで最後の思い出づくりができたってわけか」
そう言って改めてルフィとロビンを見ると、ライトに照らされているせいか、そこだけ別世界のようで、二人がずいぶんと遠い存在に思えた。
「ルフィもロビンも、幸せそうなんだから、いいじゃない」
ナミだけが、嬉しそうに二人を見つめていた。
「そうだな。二人が幸せになってんのに、オレたちが寂しいとか言ってらんねえな!」
ウソップが涙目のまま笑った。
「幸せか……」
ちら、と隣のナミを見ると、ナミはオレの方を見て首を傾げながら笑った。
やたらと胸元の開いたドレスは、周りの男たちの視線を集めている。オレでも目のやり場に困るくらいだ。
ロビンが選んでプレゼントしてくれたと言うもんだから、着るなとも言えず、オレはナミと一定の距離を保ちながら、変な男が寄ってこないようにしっかりとガードしていた。
わあっという歓声が聞こえて、誰もが手を挙げ始めた。
「ブーケトス!」
ナミも嬉しそうに手を挙げた。ステージの上にいるルフィとロビンは遠かったが、ルフィがロビンに何か耳打ちすると、ロビンはまっすぐにこっちを見て、そしてブーケを投げた。
白いブーケは、無数の手にはじかれて、事もあろうにオレの手の中に落ちてきた。
まるで、ブーケを取る意志のない手が連なって、ここまで運んできたようにも感じた。
「おいっ! 普通はナミさんだろうが!」
コックの素っ頓狂な声と共に、一瞬で会場にブーイングが起きた。
「やり直しだ! ブーケを戻せ、クソマリモ!」
クソコックがオレが持っているブーケを奪おうと、飛びかかってきた。
それを交わしながら、ルフィとロビンの方を見ると、ルフィはしししと笑って、「ゾロ、がんばれよ! 次はお前だかんな!」と言った。
止まらないブーイングの中、オレはプールサイドから砂浜へ降り、すかさず手を伸ばす。
「ナミ」
名前を呼ぶと、ナミはプールサイドから勢いよくオレの腕の中に飛び込んできた。
するとブーイングに混じって歓声やら口笛やらが聞こえた。
そのまま手をつないで、砂浜へと走る。
ナミは何がおかしいのか、笑いながら履いていた靴を砂浜へ蹴るように投げた。
「今のシーン、映画みたいだったね。誰かビデオ撮ってないかなー」
「アホか。ったく、あいつらいつもオレをイジって楽しんでやがる。……ほらよ」
ぶっきらぼうにブーケをナミに突き出す。喜ぶかと思ったら、ナミは戸惑った表情で、受け取るのをためらっていた。
「いらねェのか? オレがもらってもなァ……」
ブーケをくるくると回しているうちに、いつも鈍いオレにしては珍しく、ナミがブーケを受け取れない理由がわかったような気がした。
浜辺に投げ出されたナミの靴を拾って、二人で海を眺めながら座った。
ナミは海と空の境界線を眺めながら、パーティーの余韻に浸っているようだった。
「なァ」
「ん?」
「……まずは3連覇だ」
「え?」
「剣道の全日本で3連覇」
「あー、ゾロの目標?」
軽く聞き流したかのように、ナミはぼんやりと返事をした。
「……3連覇を達成したら、オレは自分自身のけじめとして、正式にお前に結婚を申し込む」
「……えっ!?」
ふいをつかれたと言わんばかりに、ナミは背筋を伸ばしてオレを見た。
「これはその約束として、お前に渡す」
改めてブーケを突き出すと、ナミはきょとんとしたままブーケを受け取った。
「プロポーズをする約束? 何それ〜!」
急に吹き出して、ナミはそのまま後ろに倒れそうなくらいにのけぞって笑った。
「お前なあ……オレは真剣に言ってんだぞ!」
わかってる、とナミは笑いながら言った。
「でも、今年とか、来年負けちゃったらどうするの? また1からカウント?」
「当たり前だろうが。つーかお前、オレが負けると思ってんのか? オレの最終目標はなァ、5連覇なんだぞ?」
ムキになって言い返すと、ナミはまた笑い出した。
「それなら、5連覇達成した時でも……ちょうど私も大学卒業するし」
「オレがそこまで待てねェから3連覇っつってんだよ」
「じゃあ今でもいいのに」
「ダメだダメだっ! オレにとっちゃ、3連覇がひとつの節目なんだよ」
ナミは必死で笑いをこらえている様子で、オレにしてみりゃ失礼な話だった。
「ゾロって天然? 超ウケる〜!」
その言い方は、ナミがまだ高校生の時にオレをからかっていたような口調だった。
「うるせェな。ちゃんとその時が来たらプロポーズするから、待ってろ」
「はーい」
ったく、わかってんだか、わかってないんだか。
ナミはブーケを持ち上げたり下げたりしながら、白い砂の上で素足をパタパタ動かしていた。
「オレは約束は守る」
汗で額にくっついたオレンジの髪を丁寧に分けてやると、ナミはオレの顔をじっと見て「知ってる」と言った。
そのままオレの肩にもたれかかり、上目遣いでいたずらっぽく笑う。
「早く返事がしたいなー」
「……その時までとっとけ」
「もう決まってるけどね」
それ以上、この話を続けると、オレの意志が揺らぎそうだったので、オレはすかさずナミの口をふさいだ。
長い時間をかけて唇を重ねていると、突然、海から空に向かって火柱のような花火が上がった。
まるで何十ものロケットが空に向かって発射されたようなそれは一瞬にしてあたりを昼間のような明るさに包み込んだ。
「ねえ」
「あァ?」
ナミはどこか懐かしそうに花火を見つめている。
「私たちのときは、みんなで花火しようね」
覚えておく、と言ってもう一度ナミに顔を近づけたところで、向こうからルフィたちが騒ぎながらやってきた。
一張羅にもかかわらず、そのまま全員で海に飛び込んだ。
ずぶ濡れになってはしゃいでいるナミを眺めながら、ああ、オレは今じゅうぶんに幸せだ、と思った。
幸せの形なんて人それぞれだが、3年後、5年後、その先もずっとこうやってナミがオレの隣にいてくれることが、オレにとっては最高の幸せなんだろう。
ガラでもねェな、と自分でも思う。
まァ、惚れた弱みってやつだ。いいだろう?
パーフェクト・スター パーフェクト・スタイル epilogue 2010.12.5 zono