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伊達男で優男 2

〜Moulin Rouge〜

SANJI × NAMI


手を繋いで街を歩くと、道行く人みんなが振り返る。

そんなにジロジロ見るなってんだ。でも、もっと見てくれ、オレの自慢の恋人。
街灯の明かりの下では、そのオレンジ色の髪が金色に輝いて見える。

得意気にオレは彼女の手を引いて一歩先を行く。

 

例の分かれ道に来ると、オレは彼女の手を引いて暗い砂利道の方へ誘導しようとした。
だけど彼女は立ち止まって、オレの手をぐっと引っ張って抵抗した。
「ちょっと、何でわざわざそんな変な道選ぶの?」
「こっちの方が夜景が見えてきれいなんだ」
「だってそんなの、レストランに行けば見えるんでしょ?」
「……」

そのたった一言であっさりと作戦は変更。
オレは彼女の手を引いて、レンガの坂道を歩いて行く。ちょっとだけ肩を落として。

「疲れた。もう歩くのやだ」
「え?」
「おなかへって動けない」
「あともう少しだから、ね?」
子供みたいにぐずる彼女の肩を引き寄せると、彼女はそれを片手で払いのけた。
「やだ。おんぶ」
そう言って両手を広げる彼女。オレは慌てて彼女に背中を向けて膝をついた。
細い腕が首に回されて、オレの腰の横あたりからサンダルがにゅっと現れる。
甘い香りがして、彼女の息がオレの耳にかかる。体が密着して、ちょっといい気分。

オレを困らせたくてわがままを言ってるのか。
それともオレを喜ばせるためのサービスなのか。

どっちにしても、オレはそんな彼女が大好きだ。

「急いでね」
「ハーイ」

ひそひそとか、くすくすとか、すれ違う人の声が聞こえても、オレのデレデレの顔は元には戻らない。
「昼間、ひとりで坂の上から歩いてくるから変だと思ったわ。ウソップに荷物持たせて何してるんだか」
「まあ、あいつには悪いことしたなあ」
「どうせ部屋も取ってあるんでしょ?」
「はは。よくおわかりで」
「あんたの行動パターンなんてお見通しよ」
「じゃあ、今日はそのつもりで来てくれたってことだよね?」
「それはどうかしら?」
「ええっ!?」
振り返ろうとすると、彼女はオレの耳をあむっとくわえて「この後のサンジ君次第よ」とささやいた。

そういうつもり、アリアリですよね?
ゴーですよね?
よいのですよね? 「ホラ、急いで!」
そう言って前方を指差すから、オレは目の前にニンジンを吊り下げられた馬のように張り切って、レンガの坂道を駆け上がって行った。
レストランの入り口の扉が見えた頃、 空からぽつぽつと雨が降り出したので、オレはラストスパートをかけてレストランに飛び込んだ。
その途端、ザアッとものすごい勢いで雨が降り出した。
「ね、急いで来て正解だったでしょ?」
そう言ってくすっと笑った彼女。
「もしかして、雨が降ることわかってた?」
「まあね」

……いったいオレはどのあたりから彼女に操られていたんだろう。
計算高くて、頭の回転が速くて、したたかで。

オレはそんな君が大好きだ。

あいにくの雨で、プライベートルームの窓には水滴のカーテン。予定はちょっと狂ったけど。
「ワインリストを見せてくれ」
ここは予定通り進められそうだ。
ウエイターが立ち去った後、彼女は頬杖をついて微笑んだ。
「ねえサンジ君、知ってる?」
「ん? 何を?」
「この町は地ビールが有名なんだって」
「え……」
「飲みたいなぁ」

……また作戦変更?

「やっぱりビールをもらうよ。有名だと聞いたからね」
さも知ってましたといわんばかりのすました態度で、ワインリストは開くことなくウエイターに返却。
すぐそばで、彼女は笑いをこらえている。
ちょっと情けない気もするが、彼女が喜んでくれればそれでいいんだ。
それに、何気なくオレを立ててくれているところに、ますます惚れてしまった。

この素晴らしい夜と、君に乾杯。

でもそろそろ、オレのペースに持っていきたいところ。

勝負はもちろん、ベッドルームで。

 

水煙がせっかくの夜景を覆って、窓の外でくすぶっている。
部屋の扉を閉めるなり、甘いあまーい、長いながーいキスを交わす。
「先にシャワー浴びるわね」
そう言って彼女はバスルームへ消えていった。
遠くに水の落ちる音を聞きながら、注文した花束が届くのを待っている。72本のバラ。
ここだけは決めたいところなんだ。
まだかまだかとそわそわしながらドアを見る。できればバスルームから出てきた彼女に突然渡したい。

「お待たせ」
振り返ると、ほんわかと温かそうな空気をまとった彼女の姿。間に合わなかったか。
バスローブ姿も魅力的だけど、本当はあの白いワンピースをオレの手で脱がせたかった。
そんなことを考えていると、彼女は「早く入ったら?」とオレを促した。
「ああ……」
ドアの方をちらちらと見ながら落ち着かないオレの様子を見て、彼女は少し冷たく言った。
「早くしないと先に寝ちゃうわよ?」
「えっ、それは困る……」
「だったら早く」
仕方なく立ち上がってバスルームに向かう。
「あ、あの、ルームサービス頼んでおいたから、来たら受け取っておいてね」
「うん、わかった」
特に気にする様子もなく、彼女は返事をした。

なかなか作戦は思うとおりに進まない。
シャワーを頭からかぶりながらキアイを入れ直す。
ここからは絶対にオレのペースで!

「サンジ君!」
バスルームから出ると、扉の向こう側ですでに待っていた彼女が飛びついてきた。
「素敵! ありがとう!」
あまりにも突然で、抱きつかれた体を抱き返すことも忘れていた。
ああ、もしかしてバラが届いたかな?
彼女の肩越しにテーブルの上に視線をやると、そこには赤ではなく黄色い大きなカタマリが見えた。

……バラ、って言わなかったか?

オレが唖然としていると、
「私、ひまわりって大好きよ」
そう言って彼女はずいぶんと積極的にオレの顔にキスを浴びせる。ちゅっ、ちゅっ、という不規則なリズムで、オレの体に火を点ける。

何でバラがひまわりに化けたのかはわからないが、彼女の喜びようったらないので、ここはあっさり作戦変更。結果オーライ。
どうせ宝石箱のような夜景も見えないし、バラもないから、決めゼリフも変更。

「ひまわりみたいに、いや、ひまわりよりも太陽がよく似合うナミさんが好きだよ」

「ん」

満足気にオレのキスを受け止めて、自らバスローブを脱ぎ始めたので、オレは慌てて彼女を抱きかかえてベッドに運ぶ。バスローブは白いワンピースよりも色っぽくて、それでもって脱がせるのも簡単だ。
だけど、今日はじっくりゆっくりキモチヨクなりたいから。
ここはどうあってもオレのペースで!

本当の夜はこれから。

 

むに、とオレの鼻をつまむ手の感触。
「起きてる?」
顔のまん前から聞こえる声。
むにむにと、何度も鼻をつままれる。
「寝てるんですかー?」
ハイ、寝てます。寝ていることにします。もうちょっと遊ばれていたい。
でも、あんまり鼻を引っ張られると、あの狙撃手みたいになりそうでちょっと心配になった。
「ふふ」
ぴと、と彼女の顔がくっついてきたのがわかった。
触れ合っているそこだけがしっとりとあたたかい。
彼女が唇を動かすと、頬のあたりがむずむずくすぐったくなる。

「大好き」

そう言ってオレの鼻の頭にちゅっ、とキスをしてくれた。

……作戦通りじゃないか!

オレはがばっと起きあがる。
「んナミっすわん!」
「やだ、起きてたの?」
抱きついて、やわらかくて大きな胸に何度も頬擦りすると、ふにふにふにふに、あったかくて気持ちいい。彼女はくすぐったがってオレの頭を掴んで離そうとする。そのままじゃれあって、また抱き合って。時計を気にしながら、時間の許す限り。

ん? まだ作戦は終わっていないって?

ああ、目覚めのコーヒーね。

……却下。

作戦変更。
だってこのまま目覚めたくなんてないし。ずっとこうしていたいんだ。

夜はあまりにも短すぎたから。

 

大きなひまわりを抱えて、彼女は嬉しそうに坂を下りて行く。
オレは数歩遅れてついて行く。
船が見えたところで、声をかける。
「ねえナミさん」
「なあに?」
「退屈しなかった?」
「うん。しなかったわ」
それを聞いてオレの顔がゆるむ前に、彼女は「でも」とつけ足した。
「あれで満足したって思われても困るわ」
「えっ?」
彼女はオレの頬に軽くキスをすると、耳元で笑いながら、でもちょっと脅迫するように言った。
「今度は、ちゃんと自分で選んでね」
「は?」
スタスタと船に向かう彼女の後ろ姿を見つめながら、胸ポケットのタバコに手をやる。
「ん?」
そこには一枚の紙切れ。

”おせっかいかとも思いましたが、彼女はバラよりこちらの方が喜ばれるかと。さっきひまわりがお好きだと言ってらっしゃったので。 花屋より”

「はは……バレてたか」

知ってたくせに。

それでもオレのペースにハマったフリをしてくれる君はなんて素敵な人だろう。

素直じゃなくて、そのくせ甘え上手で、気まぐれで、そう簡単には手の内を見せないけど。

オレはそんなあなたが大好きなんだ!

 

「恋のランデブー」作戦。
大幅に軌道修正をしつつも、無事完遂。

 

最高の夜をありがとう

やっぱり君のリードで

夢の世界に連れて行ってもらうのが一番いいや。

 

 

*END*