朝からナミさんが口をきいてくれない。
オレ、何か怒らせるようなことしたっけ?
「ナーミさん! お茶にしない?」
デッキで新聞を読んでいるナミさんの顔を覗き込んだら、フイ、とあっちを向いてしまった。
「ナミさーん、オレ何か気に障るようなことした?」
オレのその言葉に、ナミさんは怒りを通り越して少し目に涙を溜めてオレを睨んだ。
「忘れたフリ?」
「は?」
「昨日の夜!」
「昨日の夜?」
「覚えてないなんて言わせないわよ?」
「……何を?」
ナミさんの顔が真っ赤になって、かなり強烈な平手打ちをくらった。
「ってーっ!! ナミさぁん? オレ一体ナミさんに何したんだよぉ?」
「昨日の夜っ!」
「だから昨日の夜、なに?」
「突然見張り台にやってきて、私に抱きついてキ……キス、したでしょ?」
「はあっ!?」
何だそれ? ナミさんに抱きついてキス!? オレが??
そんなこと……すっげーしたいんですけど?
「オレが、そんなことしたの? ナミさんに?」
「そうよっ!」
身に覚えがない。身に覚えがないのが非常にくやしいくらいに覚えがない。
「ナミさん、断じてオレはそんなことしてないよ」
「ウソつきっ!」
「ウソじゃないって。ナミさん夢でも見てたんじゃねえの?」
「何よ、あんた私がウソついてるって言うわけ?」
「そうじゃねーって」
弁解しようと一歩前に出ると、ナミさんは新聞紙を盾にして身構える始末。
「だってさ、ナミさん」
そう言って、ずいっとナミさんの顔に近づいていくと、さっきよりも更に強烈なグーが飛んできた。
それをすかさず交わして、ニッと笑う。
「……ほらね」
ちょっと顔を近づけただけなのに、こんな反応だよ?
「ナミさんがしらふだったら、オレにキスなんてさせるわけないっしょ?」
「そう言われてみれば……」
「夢見てたんだよ」
「そうなのかなあ……」
「それで殴られたんじゃ、オレたまんねえな」
「……ごめん」
でも、オレの夢見てくれるってのはヒジョーに嬉しいんですけど?
「ナーミさん」
「何よ」
「夢の中のオレ、キス上手かった?」
「知らないわよ、バカッ!」
現実のオレはナミさんに触れることもできないのになあ……。
「オレがいつもナミさんのことばっか考えてるから、オレの分身がナミさんに会いに行ったのかもしんねえなあ」
「やめてよ、キモチワルイ」
「はは」
しかし、オレにキスされたとき、ナミさんはどんな反応をしたんだろう?
キスしてるときのナミさんは、どんな顔で、ナミさんの唇はどんなやわらかさなんだろう?
……いいなあ
オレもナミさんとキスしてえ
オレのくせに、いいところだけ持っていきやがって
後処理は全部オレに押しつけんのかよ
「はあー……オレ、そいつになりてえなぁ……」
オイシイ思いしすぎだ、オレの分身
オレと代わってくれ
**END**
zono 2003.10.**