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z*1/2


 

He is such a lovely drunk 

NAMI × ZORO

 



「おう、ナミ」

宴を抜け出し、涼しい場所を探して城の中をうろついていると、物陰から声がした。

「ゾロ」
「宴は? もう終わったのか」
「ううん、まだ続いてるわ。ちょっと暑くなったから涼みに来たのよ」
「へェ、そうか」
短い言葉をつなぎながら、床に寝そべっているゾロの隣に腰をおろす。
「あんたは? もしかして酔っぱらった?」
「バカいうな。まだ量のうちじゃねェよ。そういうお前こそ、飲み過ぎたんじゃねェのか?」
「何言ってんのよ! 私は暑くなったから涼みに来たんだって。飲み比べしてた兄ほしちゃんたちはもうすっかり潰れちゃったし」
ムキになって言い返すも、ゾロはそれには特に何も言わず、気持ちよさそうに目を閉じている。
「まったく……飲むか寝るかね……」
ふう、と肩を落として息をつき、見上げると、シャボンの向こう側にはエメラルドの海の中、鮮やかなサンゴが浮かび上がっている。
そこを行き交う色とりどりの魚たちは、きれいならせんを描き、海の泡が光の粒のように流れていく。
息を吹き込まれた一枚の絵のように、目の前にはえもいわれぬ光景が広がっている。

本当に、ここは楽園のようね……

「やけにご機嫌じゃねェか」

うっとりと海を眺めていると、ふいに背後からゾロが声をかけてきた。
「あんた、起きてたの?」
「悪ィかよ」
「こんな楽しい宴を開いてもらって、機嫌が悪いわけないじゃない」
「いや、そうじゃなくて……」
フッと笑うと、ゾロは両腕を頭の下に置き、のけぞるように私を見た。

「なんか、ふっきれたみてェだな」

一瞬、その意味がわからず、二人の間にふわりと沈黙が流れた。

「……何が?」

問いかけても、ゾロは口元で笑ったまま目を閉じた。
そして予期せず心臓がドキドキ鳴り始めた。

「あァ、あとあれ、取り消す」
「だから、何が」
「お前のこと”小物”って言ったことな」

そこで心臓が飛び出しそうなくらいに跳ね上がった。

”人ひとりも見殺しにできねェような小物が……粋がってんじゃねェぞ”

「……いつの……話よ……」

動悸が指の先まで伝わって小刻みに震えているのがわかる。
何で今さら……

急に目の前にあのシーンがフラッシュバックして、胸がぎゅっと締め付けられるのがわかった。
体を縛られたまま水の中に飛び込んだゾロを、私は後先考えずに助けてしまった。
あの時は、理由なんてなかったと思う。ただ、勝手に体が動いて……その後、必死で取り繕った記憶がある。

「そんなの……忘れてた」

本当に忘れていた。
でも、忘れているということは、ゾロが言うとおり「ふっきれた」ということなのかもしれない。
あの頃の私があって今に繋がっている……それは「海の森」で私が口にした言葉。
思わず、私もフッと笑ってしまった。

「何にも知らないくせに」
「あァ、知らねェな。興味もねェし……過去のことなんてな」

そう言ってゾロは大あくびをして、「ねみィ」と言った。
それにしては過去の発言をよくもまあしっかりと覚えていたものね、と思ったけどそれは言わないことにした。

「これでようやく私を仲間だと認めてくれたってわけ? 2年以上経ってようやく」
「バーカ、違ェよ」
間髪入れずにそう言って、
「オレは昔お前に言った言葉を取り消す、そう言っただけだ。これですっきりした……寝る」
そしてそのまま規則正しい寝息を立て始めた。

「……」
何だか煙に巻かれたような気分のまま、私は上下するゾロの胸を眺めていた。
私の過去のことなんて何も知らないのに、ふっきれたとか言ってみたり。
過去に興味がないとか言ってるのに、発言を取り消してみたり。

髪を手で押さえて、そっとゾロの顔を覗き込むと、寝息と一緒にかなりきついお酒の匂いが吐き出される。
「しらふを装っていたけど、本当はかなり酔っぱらっているんじゃないの?」
そう言って、ゆっくりと唇を近づけてみる。

つまりは……あんたはずっと私を見てくれていて、あの頃と違う私の変化にもちゃんと気づいてくれて。
私と交わした言葉もしっかりと覚えているくらい、私のことを気にかけてくれているって……そういう風に思っていいかしら?

むに、と自分の唇が押し返される感触で、ハッと我に返った。
ちょうど、ゾロの口角の際に口づけている自分がいて、慌てて体を離したけど、目の前のゾロは何の反応もなく、気持ちよさそうに眠っている。
かあっと体が熱くなるのを感じて、背を向け、膝を抱えた。

……寝込みを襲うのはフェアじゃないわ。唇を奪われなかっただけありがたいと思いなさいよ……!

「がー」

それに呼応するかのように、ゾロは大いびきをかいて眠りだした。
両手を左右に大きく広げ、永遠に目を覚まさないんじゃないかと思うほどに重力に身を任せて。

……でも

心のどこかで目を覚まして欲しいって、ちょっとだけ思っていた。

「……この酔っぱらい」

そうつぶやいたところで、部屋の入口の方が急に騒がしくなった。

「ほら、ウソップ〜! サンジも! しっかりしろよ」
チョッパーが風船のようにふくらんだウソップと、石になったサンジ君を抱えてやってきた。
チョッパーやウソップと他愛もない会話をつなぎながら、時々ちら、とその様子を見るも、ゾロは相変わらずいびきをかいて眠っている。
すぐ側まで投げ出された左手に視線を落とすと、節くれ立った手には細かい傷がたくさんあった。
そっと右手を伸ばして、その手の平に触れようとした瞬間、無防備だったゾロの左手がぎゅっと私の手を握った。
思わずびくっと反応すると、ゾロは目を閉じたままニヤリと笑って、

「……酔っぱらいは、お前の方じゃねェか」

そしてすぐに私の手は解放された。
心臓がバクバク鳴って、体は熱く、自分でも顔が赤くなっているのがわかるほどだった。

「……」

そういえば……
私がこの部屋に入ってきたとき、まだ姿が見えないうちに、ゾロは私の名前を呼んだ。
もしかしたらさっきのキスも……?

「あー! お前らもいたのか!」

顔の熱が収まらないうちに今度はルフィが入ってきて、慌てて口に出した言葉は、

「飲み過ぎちゃった! 酔い醒まし」

すぐ側でゾロがフッと笑ったような気がしたけど、振り返った時にはすでに大いびきをかいていた。
まだドキドキしている胸をゆっくりと落ち着けながら、思った。


……次は寝込みなんて襲わない。酔っぱらったフリもしない。

正面から堂々とその唇に向かっていくんだからね−−




He is such a lovely drunk −おわり− 2012.1.6 zono