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Qualify to be your lover

SANJI × NAMI


彼が私の恋人だということに、ようやく慣れてきた今日この頃。

毎日毎日朝から晩まで一緒にいるから、案外実感がなくて。
ようやく二人きりになれるほんのわずかの時間に、恋人らしい特別な行為をすると、ああ、私は彼の恋人なんだな、と妙に納得する。

私は彼のことがとても好きなんだな、と改めて認識する。

「ナミさん」
「ん?」
目の前に出されるお茶とお菓子には、いわゆる「愛情」がたっぷり込められていて、特別扱いされていることを感じて誰にともなく優越感を感じる。
「あさってオレの誕生日」
「ん」
「ん、って」
「知ってるもの」
「つれねえの」
そう言いながらもほおづえをついて嬉しそうに彼は笑っている。
「ちょうど島に着く日だろ?」
「そうよ」
「じゃあデートしようね」
「ん」
そっけなく返事をして、一口サイズのお菓子をひとつ、あまりありがたみを感じていないかのような動作でつまんで、ぽいっと口の中に入れた。
それでも彼は笑っている。
お菓子のふりをした甘い甘い愛情のかたまりが体の中にしみ込んでいく。

「オレが欲しいプレゼント、わかってるよね?」
「え?」
それでも短い言葉でしか返答しない私に向かって、彼は少し意地悪く口元をゆるめた。
「期待してるよ」
何を思ったのか、彼はいきなり私の鼻をむにっとつまんだ。
顔を左右に振ってその束縛から逃れると、彼はようやくハハハと声を出して笑った。

「わかんなかったら、ナミさんオレの恋人失格」

恋人失格? 

いつも私に気を遣ってばかりの彼にしては、ずいぶんと強気な発言。

「……エラソー」

少し頬をふくらませて怒ったふりをしながら、心の中ではひそかな喜び。

私のことを恋人と呼んでくれた。

そばにいることが当たり前で、いないことが不思議なくらいにお互いを必要としているのに、何故か彼と私の間にはいつもぎこちない空気が流れている。

手、繋いでいい? とか、キスしたい、とか。いちいち確認する彼に、素直にうなづきながらも、心のどこかでやきもきしていた。

いつの間にか、ごく自然に恋人同士になったから、彼にはきっと確信がないのだと思う。
「そばにいてもらってる」とか「逃げられてしまうかもしれない」なんて不安があるのだと、思う。

初めて手を繋いだ日の、船に向かう途中の道から見えた海が泣けるほどきれいだったのを覚えているし、初めてキスをした夜は眠れずに、枕を抱きしめて何度も何度も寝返りを打った。

抱きしめてくれるときの首元からは、甘いバニラの香りがして、とても幸せな気分になれる。あの甘いお菓子に込められた「愛情」に直に触れられたような気がするから。

彼が欲しいプレゼント?

それって、私が彼からもらった分だけ返してあげることなんじゃないかしら。

私が彼から感じている「愛されている自信」をあげたい。

……どうやって?


到着した島は春島とはいえ、まだ肌寒く、コートを着て外に出た。
どこに行く当てもなく、何をする予定もなく、とりあえず街を歩く。
先に歩き出した彼が振り返る前に、その腕にしがみつくと、彼は驚いた顔をして、そしてすぐに笑った。自ら指を絡ませて、繋いだふたつの手を彼のポケットの中に入れた。
「なんか」
「ん?」
「今日はサービスいいね」
満足そうにタバコをふかす彼の笑顔が、妙にぎこちなく見えた。
「それって、いつもはよくないって言ってるの?」
コートの中の手をするりと抜いて体を離すと、彼は慌てて私の手を掴み直そうとした。一瞬の差で空を掴んで、私の背中に向かって声をかける。
「ごめん、ナミさん。冗談」


「ねえ、ナミさん」
「ごめんね」
「オレ嬉しくてつい」
彼の声はずっと数歩後ろから聞こえてくる。私が歩く速度を変えても、一定の距離を保って、聞こえてくる。

「恋人失格ね」
「え」

ぴた、と足を止めると、彼の声も後ろで止まった。
ゆっくりと振り返る。空は青空に白い雲と灰色の雲が混ざって、今にも泣き出しそうな私の心と同じだった。彼の口元のタバコの煙も空の色に紛れている。

「サンジ君は私の恋人失格だわ」

はっきりと空に響いた私の声がきっかけだったのか、ゆっくりと、白い雪が舞い落ち始めた。
まだ冬がためらいながらそこにいる、春島。

彼は少し離れた場所に立ったまま、言葉を失って、目を見開いて私を見ていた。彼を取り巻く空気は氷点下のように、冷え冷えとして見えた。ひょっとしたら、この空気に触れた水分が、雪に変わって降っているのかもしれない。

「失格よ」

雪はひらひらと舞い落ちては、地面に触れるとすぐに消えた。土の中ではもう春が始まっているから。

「私が……私がどれだけサンジ君のことを好きか、全然わかってないから、失格」

たまたま目に入ったひとひらの雪のお陰で、涙目をごまかすことができた。

「手を繋ぐのだって、キスだって……いきなりされてもイヤだったらイヤってちゃんと言うもの」

「ご、合格するには、どうすればいい?」
タバコを捨てて慌てて彼は私に歩み寄り、肩にそっと手を置いた。
「知らないわよそんなの、自分で考えなさいよ」
またそうやって私に答えを求める。くるくる眉が下がって、困った顔をしている彼。

「わ、私は、サンジ君の恋人失格になんてならないもの、絶対」
「オレだって、失格になんてしない、絶対」
「だって、サンジ君の欲しいものわかんなかったら失格って言ったじゃないの」
「オレが欲しいのは」
「私なんて、サンジ君が毎日毎日うざったいくらい側にいて、お茶とかお菓子を出してくれて、バカみたいに私のこと好きなの、十分にわかってるもの」
誉め言葉なのか、けなしているのかわからない言葉を並べて、彼の胸にぎゅっと抱きついた。
「私はサンジ君に愛されてる自信があるんだから、恋人失格になんてならないし、させない」
「……うん」
彼の腕に丁寧に力が入って、私を包み込んだ。
「オレも、自信持っていい?」
「……」
返事の代わりに、もう一度強く抱きついた。
「持つよ?」
「……いちいち聞かない」
「うん、ごめんね」

髪を撫でてくれる大きな手が、あたたかくて、抱きついている体もあたたかくて、まるでベッドの中でまどろんでいるような気持ちよさがあった。

「ナミさん、オレの欲しいもの、ちゃんとくれたね」
「でしょ。恋人だもの、当然よ」
「そうだね」

抱きしめたまま、顔をさらに近づけて、彼は断りもなしに私の唇を奪った。
「んー」
「あ、ごめ」
慌てて離れた彼は、また眉を下げて困った顔をした。雪はまだ降り続いている。
「違うの」
「ん?」
少し頬が熱くなっているのを感じながら、私は彼を見上げた。きっと、私の今の表情は、彼に「愛されている自信」をあげるには十分なくらいの愛情が込められていると思う。

「お誕生日おめでとう、サンジ君。これを言わなきゃ意味がないでしょ?」

「はは、そうだったね」

ありがとう、と言って再び私を抱きしめようとするその前に、彼は両手を空に向けて、笑った。私もつられて上を向く。
「ナミさん、見てごらん。太陽が出ているのにまだ雪が降ってるよ」
「ほんとだ」

まぶしい光の中を、白い小さな雪がふわりふわりと落ちていく。彼の手のひらはそれらをすべて集めて、今にも白い花束でも作ってしまいそうな、魔法の手のように見えた。
事実、空は太陽が輝いているのに、白い結晶は溶けることなく降り続いているのだから、これはきっと彼の魔法なのかもしれない、なんて思った。
彼と一緒にいると、こんな素敵な光景にこの先何度も出会えるのかもしれない。

「サンジ君、大好き!」

勢いをつけて飛ぶと、彼の首にぶら下がるように抱きついた。彼は驚いたけど、すかさず私を抱き留めて、そのままぐるぐる回った。遠心力で、私の足が彼から離れる。

「やだあ恥ずかしい」
「よく言うよ、っていうか、サイコー!」

ぐるぐるぐるぐる、足がふらふらになっても、彼は私を抱きしめて回り続けた。目の前に流れる雪の結晶は、太陽の光できらきら輝いている。

目が回った彼は、道ばたのベンチでぐったりしている。バカね、と言いながら私はそのやわらかい髪を撫でてあげた。彼は下を向いたまま、力の抜けた声で私に話しかける。

「ナミさんさっき、オレのことうざったいって言わなかった?」
「ん?」
「あと、バカみてえとか」
「ふふ」
「そんくらいナミさんのこと好きなんだぜー?」
「わかってるわよ。でもね」
「ん?」
「……」

うつむいている彼の耳元で、そっと囁くと、彼はがばっと顔を上げて少し驚いたような表情で私を見つめたあと、満面の笑みをくれた。

「予想以上に素敵なプレゼントをありがとう」
「もっとぜいたくになってもいいのよ?」
「うん」

ゆるゆるの顔で笑うと、彼は何も言わずに私を抱き寄せて、断りもなく唇を重ねた。

そうそう、多少強引なくらいじゃないと、私の恋人はつとまらないわ。

雪は止み、地面には何のかけらも残っていなかった。太陽の光はあたたかく、長い冬の名残を残しながらも、これから始まる春の香りを漂わせていた。

こんな春島もたまにはいいな、と思った。


”サンジ君が私のこといっぱいいっぱい好きになってくれたら、私も同じだけいっぱいいっぱい好きになるから、もっと私のことを好きになってね?”



こんなに愛され上手な私が、彼の恋人失格なんてこと、絶対にありえないんだから。








Qualify to be your lover  -fin-



                                                                                                  zono 2005.03.5