初めて恋をした女と
初めて愛を知った男
不器用なキスを交わして
手探りのまま体を重ねて
何度も何度も繰り返したら
いつしか二人の心もカラダも
同じ温度になって
ゆっくりと、混ざり合って
ゆっくりと、溶けていった
「……素敵」
少女は目を輝かせる。すでに空っぽになったグラスは鏡のように少女のいきいきとした表情を映し出している。
「おじさん、いつもの冒険話もおもしろいけど、今日のお話はとっても素敵だわ」
「へへっ、そうだろ? これはとっておきの物語だからな」
男はコーヒーに砂糖をみっつ、クリームをふたつ入れてかき混ぜる。白と黒のまだらが渦を巻いて、ゆっくりとひとつの色に収束していく。
「あーん、私もこんな素敵な恋がしたいなあ」
「まあ、その前にもっといい女にならねえとな」
少し顔を赤らめて、少女は頬をふくらます。
「何よ! パパだって最近私のこと、素敵なレディーになったね、って言ってくれるんだから!」
「は、そりゃまた、口説き上手な父親だな……」
男はいかにも甘そうなコーヒーを音を立ててすする。
「恋をするなら、パパみたいな男の人がいいな……」
「ハハハ……辛いぞぉ? ああいう女好きには泣かされるぞー?」
「そんなことないもん、バカッ!!」
ふん、と少女は横を向いて荒っぽく椅子に腰かけなおす。しかしすぐにすねた表情になってうつむく。
「パパがアイシテルって言うのはママだけだもん……」
男は残りのコーヒーを一気に飲み干すと、カップを静かにソーサーの上に戻す。
「あー、甘え甘え。ごちそうさま。で、パパとママはどこにいるんだ?」
「知らない」
「まあまあ、そんなに怒るなって。お前のパパがママにメロメロなのはよーく知ってるからよ!」
少女は少し笑って頬杖をつく。
「いいわ。今日のお話に免じて許してあげる。今日のはあんまりウソっぽくなかったわ」
「ウソって……って、オイオイこの話はなあ……」
ふと思いとどまって、男は手をひらひらさせる。
「まあいいや。んで、パパとママは相変わらず”あそこ”にいるのかい?」
「うん、みかん採ってる」
「お前は行かねえのか?」
「だって……私はまだ手が届かないし、それに虫がいっぱいいるから来ちゃダメって」
男はしばらく考えてニヤリと笑う。
「ははーん……虫ってお前のことだろ? お邪魔虫……ハハハ!」
「何? 何がおかしいの!?」
男は腹を抱えて笑いながら少女を見る。
「大人の話さ」
「何よっ! 子供あつかいしないでよ、バカッ!!」
「ワハハハ! オレは先に店に行ってるからよ、ママが戻ってきたら ”親友”が到着したって伝えてくれないか?」
立ち去ろうとする男に少女は大きな声で呼びかける。
「ちょっと! お茶代十ベリー!」
「なんだぁ? 客からも金取んのか。そういうところは母親そっくりだな……」
ポケットからコインを取り出し、男は振り返って狙いを定めると、ひょいと投げた。それは青空に大きな弧を描き、グラスの中に見事に落ちてカラン、と音を立てた。
「…さん」
「……ナミさん」
ゆっくりと目を開けると、私の顔を不思議そうに覗きこんでいるサンジ君がいた。
「……あれ? 私」
私の髪を優しくかきあげると、サンジ君はおでこにひとつ、キスをくれた。
「どんな夢見てたの?」
「夢?」
髪を撫でながら、同じ枕に頭を乗せて、私のすぐ目の前でサンジ君が微笑む。
「うん。ずっと笑ってたよ?」
「んー……何の夢だったんだろ……」
ぼんやりと宙を眺めながら、夢の断片をかき集めてみたけど、結局それはカタチにならなかった。
「ま、楽しい夢だったんなら、いいんじゃねえの?」
どちらともなく鼻をこ擦り合わせてキスを交わす。
「ふふ……そうね。幸せな夢だったような気がするわ」
「ナミさんが幸せなら、オレも幸せ」
そう言ってサンジ君は私を抱きしめた。
「さて、と。そろそろ朝食の準備かな……」
大きく伸びをしてから、腕をついて起きあがろうとしたサンジ君の胸に手を当てると、静かな心音が伝わってきた。
「もう行っちゃうの?」
そう言ってサンジ君の頭に手を回して引き寄せて、音を立ててキスをした。サンジ君は眉を下げて微笑む。
「……もう一回ナミさんを抱いてからにする」
体を支えていた腕の力を抜いて、サンジ君がゆっくりと沈んでくる。
「この間はそう言って一回じゃなかったわよね」
顔中にキスを浴びながら、くすくすと笑う。
「あいつらが餓死して構わねえなら、気の済むまで?」
「ははっ、それは困るわね、コックさん」
そして深いキスを長い時間かけて受け止める。
熱くなっていくカラダの温度を互いに感じながら、強く抱き合う。
「サンジ―――――ッ! 腹減ったあああ!!」
すでにキッチンに勢揃いしているクルーたち。
二人で扉を開けた瞬間、殺気立つ。
船は進む。
私はこの船の航海士。
「メシー、メシー。サンジ、メシィ―――――」
ルフィは私の憧れ。
愛すべき船長、愛すべき海賊王。
「だからおめェらには関わりたくねェってんだ……」
ゾロは私の悪友。
愛すべき剣豪。
「頼むから、船の秩序だけは乱さないでくれ!」
ウソップは私の親友。
愛すべきウソつき……愛すべき狙撃手。
「ちつじょ、ってなんだ?」
愛すべき船医、チョッパー。
「さあ」
愛すべき考古学者、ロビン。
「ナーミさん! ロビンちゅわん! レディー限定、特製オムレツだよ〜」
「さんざん待たせておいて、ナミが先かよっ!」
「腹減ったー!」
「メシ―――――ッ!!」
「ったく、いい加減にしやがれ」
「あぁ? レディーファーストは当たり前だろ? コックに逆らうと餓死するぞ、おめーら」
「もう餓死しかかってんだよ!」
そしてサンジ君は―――――
「んナミっさん! おいし? おかわりは? コーヒー飲む?」
「うん、ありがと、サンジ君」
そしてサンジ君は
愛すべきコック
私の……
「たったひとりの」人―――――
解凍 ...and I Thaw You Out fin