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解凍 8  

 ...and I Thaw You Out


SANJI × NAMI 



サンジ君が、好きよ

今度会ったらそう言うんだって
決めたのに
体が動かなくなって 苦しくなって
何も聞こえなくなった

外はものすごく寒いのに、体はものすごく熱くて、私をおぶってくれているルフィの体の感触すら感じなかった。
すぐ側で聞こえてくるサンジ君の声も、不思議に響いてなんだか遠くに感じた。
あの、リトルガーデンで絶対に生きるって決めたのに、また死の恐怖が訪れるなんて。
でも、あきらめたりしない
私は信じてる
ルフィとサンジ君が必ず私をあの山の上まで連れて行ってくれるって
もう死んじゃうんじゃないかって、不安がよぎったとき
心の中でずっとつぶやいていた

サンジ君が好き
サンジ君が、大好き

まだ伝えてないから
伝えるって決めたんだから
絶対に私は生きる

 

 

* * *


ナミさん、死なないで

オレたちが絶対にあの「魔女」のところまで連れて行くから

「おいルフィ、もっとそーっと走れよ。ナミさんの体にひびくだろ」
雪に足を取られながら、急いで進んでるところにあのクソうさぎ共が現れやがった
「バカ野郎! オレに任せりゃいいんだ。こりゃ冗談じゃねえんだぞ!!」
ルフィがラパーンに攻撃しようとするのを止めた。ナミさんに少しでも衝撃を与えたら、間違いなく死んじまう。
死ぬわけがないと思いながらも、ときどきよぎる不安

ナミさんが死んだら……
オレ、どうなっちまうんだろうな

「雪崩だあああっ!!!」
必死で逃げてもクソうさぎ共が追いかけてくる
それをかわしながらも、オレたちの乗った大木は山を下っていく

目の前にでっけえ岩がせまったきたとき、オレは覚悟を決めた
ナミさんを背負ったルフィを雪の中に放り投げた。
「レディーはソフトにあつかうもんだぜ」

ナミさん、生きて
オレはナミさんのためにならきっと

……死んでも悔いはねえ

目が飛び出すような衝撃、頭が真っ白になった
ああ、雪はこんなに白いのか

ラパーンの上を何度もバウンドする度に、体が割れるような振動がきた。
かろうじて雪の上に落ちたが、身体中がしびれていた
「かーっ、利くぜ、畜生!」
雪の中にうずもれていく中で、ルフィの叫び声が聞こえた
「バカかお前! そういう勝手なことをするなあっっ!!」
無意識に手を伸ばしたら、オレの手をしっかりとルフィが掴んだ

つかんだけど

雪が押し寄せて、オレの手には何の感触も残らなかった
ただそこには真っ白な世界

 
……あったけえ
雪じゃないみたいだ
……ああ、オレはここで死んじまうのか
襲い来る痛みと眠気
沼のようなけだるさの中で、オレは見た

まだ一度も見たことのないはずの、オールブルー

 

見たこともねえ色
見たこともねえ魚
その中で、オレは漂っていた

―――――死ぬんだな、オレ
不思議と怖くねえ
ただ、心残りがあるだけだ

死ぬ前に一度でいいから
ナミさんを抱きしめたかった
願わくばこの果てしないオールブルーで

 

……情けねえ
人ひとり守れねえなんて
本気で、好きになった人を守ることすらできないなんて
どうせ死ぬなら もっとカッコよく死にたかったぜ

「……るな」

誰かの声が聞こえる
「あきらめるな、サンジ!!」

ルフィ

耳元でルフィの荒い息が聞こえる
体が宙に浮いたような感覚
オレはまだオールブルーに漂っているのか?

「全身に何百の武器を仕込んでも、腹にくくった一本の槍にゃ適わねぇこともある」

……クソジジイ

―――――かみ殺した槍

オレの、心にくくった槍は

オールブルー……
まだ、見つけてねえじゃねえか

あきらめきれねえんだ
オールブルーも
そして、ナミさんも

 

* * *

目を覚ますと、変な生き物が私の側を行ったり来たりしていた

しか?

「小娘! ハッピーかい?」
ドクターくれはと名乗るファンキーな老女……どうやら医者みたい
じゃあ、私は助かったんだ……
ルフィは? サンジ君は?
すぐにドクトリーヌにたずねた。
「私の他にふたりいたでしょう?」
「ああ、隣の部屋でぐっすり寝てるよ。タフな奴らだ」
そう聞いて、ほっとした。
ありがとう  ルフィ、サンジ君
安心しているところに大騒ぎしてあの青い鼻のしかが入ってきた。
包帯だらけのルフィとサンジ君に追いかけられている。
ケガしてるのに、もう暴れてる。
もう少し大人しくしてて欲しいのに。
でも、よかった……!

青い鼻のトナカイは、なんだか海賊に興味がありそうで、モコモコした手で私に触ってきた。
「あんたも一緒に来る?」
そう言ったら、なんだか複雑な顔して、いろんな理由を並べてた。もうちょっとで誘えると思ったら、またルフィとサンジ君がやって来て、トナカイを追いかけて出ていった。
「……一筋縄じゃいかないよ。あいつは心に傷を持っている」
そう言ってドクトリーヌはチョッパーと呼ばれるそのトナカイの話をしてくれた。

トナカイでもなく
人間にもなれない
孤独なチョッパーの過去
そしてドクター・ヒルルクの話
黙り込む私にドクトリーヌが言った。
「お前たちにあいつの心を癒せるかい?」
不思議と、チョッパーのことを「かわいそう」とは思わなかった
私は残酷かしら?
自分のせいで愛する人が死んでしまった
それは私だって同じ
「誰だって、心に傷を持っていて、それを抱えながら生きていくんじゃない?」
思わず、口に出した。
「ヒッヒッヒ……お前にはどんな傷があるって言うんだい?」
「私?」
私には、
傷だらけの心と
傷だらけのカラダ

しばらく何も言わずに私は思いだしていた
硝煙の漂う中、血まみれのベルメールさんを見た瞬間を
魚人たちの顔の向こうに広がっていた青空を
すると、体はまだ熱っぽいのに、ものすごい寒気がした。
「……それで、お前の心の傷は、癒されたのかい?」
その言葉に一瞬びくっとした。それを見透かしたのか、ドクトリーヌはまたヒッヒッと笑った。
「どっちのガキだい? お前が好きなのは」
「……え?」
ドクトリーヌはお酒を勢いよく飲んだ。
「麦わらのガキかい?」
「ルフィ……?」
私のその言葉で、ドクトリーヌは何かを納得したように何度かうなづいた。
「……背骨のガキだね」
そう言ってつかつかと私のベッドまで歩いてくると、ドクトリーヌは私の顎を指先で持ち上げた。
「ヒッヒッヒ……そういう目だよ。あたしはダテに130年も生きてるんじゃないよ」
もう一度お酒を飲むと、ドクトリーヌは私の顎から頬を人差し指でなぞって、そのままおでこから鼻筋に滑らせた。その指がやけに冷たくて、私は肩をすくめた。
「まだ、セックスはしてないね?」
「なっ! 何言うのよ!!」
ただでさえ熱があるのにさらに真っ赤になってうつむこうとする私に、ドクトリーヌは顔を近づけたかと思うと、突然片手で私の胸をつかんだ。
「痛っ……! ちょっと、何すんのよ!」
私の目の前で、ドクトリーヌは高い声で笑った。そしてすぐに手を離すと、ベッドサイドに腰を下ろして、またお酒を飲んだ。
「ヒーッヒッヒ! でも、男を知らない体じゃなさそうだねえ」
ずっと封印していた心の中にズカズカと入り込まれ、嫌でも私の中から過去の記憶が流れ出した。
また、あのときのように体の震えが止まらなくなった。
「……やめてよっ!!」
ガタガタと震えている私に、ドクトリーヌは何も言わなかった。そこへ、大きな足音を立ててチョッパーが入ってきた。
「大変だよドクトリーヌ! ワポルが……帰ってきた!!」
「……そうかい」
また大きな音を立てて去っていくチョッパーとは違って、ドクトリーヌは静かに、ゆっくりと立ち上がった。
「死んだ人間は帰ってこないさ。でも、生きる理由はこれから見つけるんだよ。過去の記憶は消せなくても、これからの未来の出来事で塗り替えていけばいいのさ……チョッパーは今、その理由を見つけようとしているのかもしれないねえ……」
まだ少し震えの残る私を、ドクトリーヌは横たえ、そして私の髪を何度か撫でた。
「お前の中ではすでに始まっているよ。後は、それを認めて直視することだね」
少しずつ落ち着きを取り戻し始めた。頭はまだぼんやりしていたけど、ドクトリーヌの言葉ははっきりと聞こえていた。
私に布団を掛け、「大人しくしてるんだよ」と言うと、ドクトリーヌは部屋を出ていこうとした。
「たとえ過去を引きずって逃げていたとしても……結局時間は前にしか流れやしないからねえ……ヒッヒッヒ!」
逃げていても、時間は前に進む?

……そうね

過去なんて、たとえ消えることはなくても、いつかは色あせていくものなのかもしれない
それを、鮮やかすぎるまま封印してしまったから、私は苦しんでいるの?

じっと考えていると、ルフィが入ってきて、私のコートを着て出ていった。ケンカをしてるなんて言ってたけど、特に心配はしなかった。だって、ルフィだから。

ルフィと、ゾロと、ウソップと、サンジ君
たった4人で、私を救ってくれた
そのときからきっと私は変わり始めているんだ

サンジ君を好きになって
そこからきっと私は変わり始めているんだ

いてもたってもいられなくなった。ベッドから出て、誰にも見つからないように部屋を出た。

サンジ君に会いたい
早く、会って
そして伝えなきゃ

部屋を出たとたん、変なバケツみたいな口のヤツに追いかけられた。必死で逃げたけど、そいつは上から飛んできて、私を取り押さえた。

ちょっと! 今こんなところでつかまっているヒマなんてないんだってば!
そう思いながら抵抗していたら、ルフィがやってきてそいつをぶっ飛ばしてくれた。逃げていくそいつをルフィがまた追いかけていくのを見送って、ようやく私は大きく息を吐いた。
「私は早くサンジ君に会いたいんだから……」
そうしたら、足もとから聞こえる声

「ナミさん平気か?」

サンジ君の声?
でも、あたりを見回しても、誰もいない
気のせいか
会いたいって思ったら、空耳まで聞こえてくるのかしら
そう思ってひとりで笑った。

「ナミさーん」

気のせいじゃない……よね?

見ると、雪の上に長い跡をつけてサンジ君が這って近づいてくる。
必死に両腕を動かして、前進してくる。

「ナミさーん」

その情けないサンジ君の姿を見て、私は思わず吹き出してしまった

会えたことがうれしくて
名前を呼んでくれることがうれしくて
そこにいてくれることがうれしくて
「サンジ君……かっこわるい」
かがみ込んでサンジ君を見下ろすと、それでも手を伸ばして必死になって言うの
「ナミさん! 大丈夫かい?」

私は笑い続ける。

大丈夫、もう逃げないから

私は、もう逃げない 

 

* * *

ルフィの戦いが終わっても、ドクトリーヌに見つからないように私とサンジ君は影に隠れて息をひそめていた。

「ナミさん、病気はちゃんと治してもらったほうがいいぜ」
心配そうにサンジ君が言った。自分だって、背骨を痛めてるくせに。
「今逃げ出さなきゃ、アラバスタへの出航があと2日も遅れちゃうのよ! あんたこれ以上ビビが苦しむ姿見てたいわけ?」
そう、ビビのために、早くここを立ち去らなきゃいけない。それは本当のこと。
でも、何て言えばいいかわからない
サンジ君に会いたくて、部屋を抜け出してきたなんて
「そりゃそうだけどさあ……オレはナミさんの苦しそうな姿を見ているのも嫌だよ」
そう言って、白い息を吐きながら優しく笑ってくれるサンジ君を見たら、迷っている時間すらもったいなく思えて。
だって、
逃げていたって、時間はどんどん前に進むから

「大丈夫よ」
そう言って私はサンジ君の手を取った。その手を私の頬に当てると、その上にまた私の手を重ねた。
「ホラ、もう熱も下がってる」
サンジ君は驚いた顔で、まばたきもせずに私を見ていた。
「ナミさん……まだ熱いよ」
「サンジ君の手が冷たいのよ。でも、気持ちいい……」
目を閉じて、その手の温度を確かめる。
「前にもこんなことあったね」
まだ目を丸くしているサンジ君は、あいかわらず呆然としている。
覚えてないでしょ? 私の手を取って、冷たくて気持ちいいって言ったの

覚えていなくていいよ
また始めればいいんだから
だから最初の一言は、私から言わせて

「ねえ、サンジ君」
「何……? ナミさん」
いつの間にか顔を真っ赤にしたサンジ君がいた
それがとても愛おしくて
私は微笑みながら言った

「私、サンジ君が、好きよ」




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