a day under the tree 10

リリィ

KAKASHI×SAKURA

 

 

一つ目の町での用事は1日で済み、その隣町へ移動してからサクラは宿を取った。

宿の庭には家主の趣味だろうか、色鮮やかな花が所狭しとその美しさを競い合っている。

そしてその香りもまたお互いに浸食し合って、そしてまた新たな甘い香りとなって、サクラの部屋に流れ込んできた。

その夜は、部屋中に充満する強い香りが気になって、サクラは何度も目を覚ました。


「……香りが強すぎるなあ……もう」


寝返りを打っては布団を頭からかぶって目を閉じる。

暗闇の中で眠りに落ちる前に、いつも遠くにいるカカシを思った。



……明日にはカカシ先生に会えるかな……



朝が来ると、サクラの頭はぼんやりとして、体が重く感じられた。

額に手を当ててみても熱はなく、ただ昨日の香りが体の中に染みこんだような、そんな感覚があった。


「……いやだなあ」


とはいえ、のんびりしているわけにはいかない、と立ち上がり、朝食もとらずに町へ出たものの、行き交う人々の話し声や、店の客引きや、扉の開閉の音がやけに頭に響いて、サクラはまっすぐに歩けなかった。

少しよろめいて、向こうから歩いてきた色白の女性に肩をぶつけてしまった。

「あっ…すいません」

相手の顔もまともに見ることなく、サクラは宙に向かって頭を下げた。


やっとのことで用事を済ませたが、思考がほとんど麻痺しているようで、回るはずの店をあと2つ残して、サクラはそうそうに宿に戻った。
家主に部屋を換えてくれるよう頼み、庭に面していない部屋で窓をしっかりと閉めて眠りについた。

しかし、それでもあの強い香りが部屋に流れ込んで来ているようで、サクラはその夜まんじりともしなかった。


……カカシ先生、早く来て……


思考がまとまらない頭の奥で、そう強く願いながら。




任務があっという間に終わり、カカシの隊は里への帰路にいた。

まだ日は高かったが、短期間での集中的な任務のせいか、疲労を溜めている隊員もいたため、昼に到着した町で宿を取ることにした。

時間を持て余し、カカシは町の中を目的もなく歩いていた。


「おや、これはこれは木の葉の里からいらしたお兄さん! どうだい? うちで一杯やっていかないかい?」

法被姿の客引きが手もみをしながら寄ってきた。

「いや、いい」

むげに断り通り過ぎようとするカカシの肩に手を回して、客引きはさらに大きな声で続けた。

「じゃあ女の子がいいかい? うちには上玉がたくさんいるよ」

「いらないって」

目も合わせようとせずに客引きの手をふりほどこうとしたそのとき、耳元でささやく声がした。


……カカシさん、どうやらこの辺に怪しい連中がうろついているらしいんです


「……えー、上玉って言われてもねぇ。上玉だった試しがないじゃない」

……お前、暗部の者か

「信用してくださいって! 黒髪から碧眼までとびきりのを揃えてますって」

……はい。先ほど隣町に潜伏している者から連絡があって、木の葉から来ている若いくの一が危険とのことです

「……」

「お兄さーん?」

それ以上言葉を発しないカカシを見て、目配せをしながら客引きはそれでも会話を続ける。

「お兄さん、その気になってくれました?」

……お知り合いですか? どうやらそのくの一は何かの術にかかっているようだと……


そこまで聞くか聞かないかのうちに、カカシは客引きを振り払って駆け出した。


「パックン! サクラを見つけてちょうだい!」


口寄せした忍犬たちにサクラの居場所を追跡するよう伝え、宿に隊員たちを残したまま、カカシは町を飛び出した。

忍犬たちをも追い越す程の勢いで、カカシも隣町へと急ぐ。


……サクラ……! なんで術なんかに……まさか……暁か……!?


最悪のパターンばかりが頭に浮かぶ。そう考えることが常であり、そうしていつも覚悟を決めていたから。

しかし、今度ばかりは違う。

最悪のパターンの後に自分を襲うであろう、言い表しようのない虚無感と絶望、そして後悔。

それらに押しつぶされていく自分の姿が見えて、背筋が凍り付く。


「……サクラ!」


走りながら、カカシは無意識のうちにサクラの名前をつぶやいていた。




2日ほどまともな食事も睡眠も取らず、サクラは何かに取り憑かれたように町を歩いていた。


……私、何してるんだろう。薬草を…調達に…行かなきゃいけないのに……


強い日差しが照りつけ、足下の影が濃くなった。


そしてまたあの甘い香りが流れてくると、サクラの体は硬直し、頭の奥が氷のように冷たくなるのを感じた。


「……ダメ……!」


この香りはダメ……頭が……おかしくなりそう……


それでも体は香りの流れてくる方向に引き寄せられる。


「いや……だ……いや……!」


必死に抵抗しながらも、体は言うことを聞かず、足はどんどんと町の外れへと進んでいく。


「……か……」


もはやその声もかすれて聞こえなくなっていた。


……カカシ先生……! ……助け…て……!




「カカシ!」


パックンが戻って来てカカシに並ぶように走り始めた。


「やっぱりサクラのにおいだ!」

「そうか……!」

カカシはいっそう速く、町へと向かう。

「それがおかしいんだ!」

「何がおかしいって?」

「サクラのにおいに混じって、甘い花の香りがずっと続いているんだ」

「花の……?」

「何か不思議な術を使う相手かもしれない」

「術? いったい何のために、サクラを……」


……花の香りか……遠隔で術をかける相手なら、接近戦でそれほど強くない可能性もあるが……


人質にするつもりなのか? それとも洗脳して木の葉のスパイに?


不安だけがどんどん募っていく。
カカシはマスクの下で強く唇をかみしめていた。


「無事でいろよ……サクラ……!」








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