a day under the tree 10

リリィ

KAKASHI×SAKURA

 

 

「カカシ先生、これあげる」


サクラが差し出したのは、淡い色の小さなしおり。


「んー? サクラが作ったの?」

「うん。この間もらった桜の花なの」

和紙の上に控えめに咲いている桜の花は、それでも確かに存在感があった。

「そうかー、ありがとな」

「カカシ先生のいかがわしい本に挟まれると思うと、ちょっとイヤだけど」

そんな皮肉を言いながらも、サクラはカカシがそのしおりを本に挟むのを、じっと見つめていた。
パタン、と音を立てて本が閉じられると、サクラは何か小さな秘密を持ったような、不思議な気持ちになった。

「サクラが見たら赤面するような、すごいページに挟んでおいたよ」

カカシはそう言って穏やかに笑った。

「ひどーい!」

サクラがくってかかろうとすると、カカシは「じゃ、オレはこれで」と言ってその場を去りかけた。

「えっ? ちょっとカカシ先生?」

「んー?」

振り返った笑顔は、いつものカカシと変わらない。

「どしたー?」

「なんでそんなに急ぐの?」

きょとんとしたまま、サクラはその状況を飲み込めずにいた。

「ん? まあ、いろいろと」

「もう任務に行くの?」

「ま、そんな感じかな……」

少し考えるようなそぶりでそう答えたカカシは、気もそぞろで、妙に落ち着きがなかった。

「あ、あのね、私も明日から里の外へ行くの」

何とかつなぎ留めようと、サクラは話題を振る。
そうすると、カカシはいつもと同じ笑顔で、いつもと同じように優しく答える。

「そうか、よかったな。どこまで行くんだ?」

「二つ向こうの町まで行って、隣町にも寄ってから帰ってくる予定」

「なるほどね」

にっこりとうなづくと、すぐにカカシは身を翻して、「気をつけて行ってこいよ」という言葉だけ後に残した。

「えっ? なんで?」

ともすれば一瞬で姿を消してしまいそうなカカシの腕をつかんで、サクラは半ば叫ぶように言った。


「カカシ先生、あのね! 私も今度はカカシ先生と一緒に任務に行けるように、綱手様にお願いしたの!」

「えっ?」

今度はカカシが戸惑って、目を見開いた。腕にしがみついているサクラの、懇願するような視線が痛いくらいだった。

「……ダメかな?」

「んー……五代目は何て言ってるの?」

「今度の用事が済んだら、任務にも行かせてくれるって」

「そうか」

カカシは一瞬黙り込んで、綱手の腹づもりを探ってみたが、わかるはずもなく、当たり障りのない返事をせざるを得なかった。

「サクラがどれくらい成長したのか、楽しみにしてるよ」

「……うん!」

そんな言葉にも、表情をぱあっと明るくして笑うサクラに、カカシは少し心が痛んだ。




「どういうおつもりで?」

任務出発の直前に、カカシは綱手に何気なく問いかけてみた。
綱手はさほど深い意味はないと、腕組みをして笑う。

「サクラも任務に出たくてうずうずし始めているからな。多少高度な任務でも、お前が一緒なら安心だろうと思っただけだ」

「……そうですか」

しばらくの間カカシは目を伏せて黙り込んでいたが、出発の時間が迫り火影室を出るときに、独り言のようにつぶやいた。

「それは、サクラのためになるんでしょうかね……」

「ん?」

綱手が聞き返すも、それは扉の閉まる音にかき消されてしまった。


太陽が南中し、カカシは隊員たちに目配せをしてうなづいた。

「よし、行くか」

「はい!」

きれいにそろった返事が空高く響いた。

カカシは里の入口を軽く振り返り、次に視線を落として、愛読書に挟まれた小さなしおりにそっと触れた。


……サクラ、気をつけて行ってこいよ


妙な胸のざわめきが、カカシから離れなかった。
足早に森を駆け抜け、流れていく景色を視界の端で捉えながら、カカシは考えていた。

……サクラと一緒に任務か……ナルトが帰ってくるまでは実現しないと思っていたんだけどね……



「準備はできたか、サクラ」

「は、はい!」

太陽が昇り始め、窓の外では空の色がめまぐるしく変化していた。

「お前の仕事は薬草の調達、それだけだ。だから用事を済ませたら速やかに帰還するように」

「はい!」

初めて一人で里を出るサクラは、緊張を隠せずにいた。綱手にも見て取れるほどに、サクラの肩はこわばっていた。

「……タイミングによっては、隣町でカカシたちと会うかもしれない。そのときは一緒に帰ってこい」

「カカシ先生と!?」

一瞬、表情が和らいだ。同時に綱手は眉をひそめた。

「タイミングが合えば、の話だ。とにかくサクラ、用のない場所には行くんじゃないよ」

「はい……でも、なんでそんなに」

おずおずと訪ねると、綱手は間髪入れずに冷たく言い放った。

「何かあっても、誰もお前を助けてはくれないからだよ」

ぞくっとするほど背筋がこわばり、サクラは改めてたった一人で里の外に出ることの責任と危険を理解した。

「任務ではないとはいえ、どこで誰に狙われるかわからないんだ。隊を組めばそれほどでもない相手でも、一人では適わないこともある」

「……わかりました」

サクラは今回の外出をただ薬を調達して帰ってくるだけと甘く考えていたことを恥ずかしく思った。


……これが終わったらカカシ先生と一緒に任務に行けるかもしれない、なんて浮かれて

まずは目の前の「任務」をしっかりとこなすことを考えなきゃいけないのに


静かに深く息を吸って、しっかりと目を開けて、サクラは胸を張って言った。

「行ってまいります!」



日差しが強くなり、里の中も賑わいを見せ始めた。

火影室の窓から里の入り口をずっと眺めている綱手を不思議に思って、シズネが何気なく訪ねた。

「綱手様、何か気になることでも?」

綱手は視線を一瞬だけシズネに向けた。その問いかけを肯定するように。

「……最近、里の近くを怪しい連中がうろついているらしくてね……」

それを聞いてシズネも眉をひそめた。

「それは……暁ですか?」

「いや、あいつらはそこまで目立った行動はしないだろう。雇われスパイかもしれないが……」

「何でこんな時期に……」

「おそらく、ナルトの居場所の手がかりを探してるんだろう」

しばらく沈黙が流れ、それを割るようにシズネが声を荒げた。

「それで……サクラを一人で里の外に出して大丈夫なんですか!?」

「すでに暗部には連絡済みだ。後はサクラが無茶をしなければ大事にはならないはずだよ」

「それなら……安心ですが」

そうだろう、とシズネにも安心感を与えようと、綱手はひとつうなづいて笑って見せたが、心は落ち着かなかった。


……カカシと会えるかもしれない、と言ったのはかえって逆効果だったかもしれないね……



里を出ると、町へと続く道をいろんな人が往来していた。

日の高いうちに次の町へと、大きな荷物を背負った人々が歩いている。

ときには黙々と歩く老人の足跡をなぞるように、ときには和やかに談笑する婦人たちと並んで、サクラも町を目指す。

ふと、やわらかい風が吹いて、どこか遠くの花の香りが流れてきた。サクラは立ち止まって風のやってきた方向を見やる。

「……甘い香り」

そして、ポケットに忍ばせたしおりにそっと触れた。


強い香りの花より、ほのかに甘く香る桜の花の方が好きだな……


「……会えるかな、カカシ先生に」


一度だけ強くしおりを握りしめると、ほんのりと温かみを感じた。

サクラは一人静かに微笑んで、歩みを早めた。





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