a day under the tree 5

青い蝶  2

KAKASHI×SAKURA

 

 

それにしても青い蝶か……


当てもないものを一体どうやって探せばいいのか。
森に向かう道すがら、どれだけ考えても何も思いつかない。
まるで雲をつかむような話、いやそれ以上かもしれない、とカカシは小さなため息をついた。

鬱蒼とした森が近づくと、サクラは少しだけ歩みを遅め、カカシより2歩ほど後ろからついてきた。

「何だー? びびってんのか?」

「だっ、大丈夫!」

ぶんぶんと頭を何度か振って自分を奮い立たせて、サクラは深い緑色が幾重にも混ざり合う森へと進んだ。

「さて」

腕組みをしたまま頭上を見上げると、高く伸びた木々が空を切り取っている。
そこに流れていく雲はすでにオレンジ色に染められていた。

「なるべく離れすぎないように、もし蝶を見つけたらすぐに合図できる距離を保とう」

「うん」

薄暗い森の色にひときわ浮き上がるピンク色の髪は、目を細めても見つけられるだろう。
サクラが森の奥へと入っていくその後ろ姿に、カカシは声をかけた。

「サクラ」

「ん?」

「見つかるといいな」

「うん!」

にっこりと笑ったサクラの目はすっかり乾いて、きらきらと輝いて見えた。
また今までとは違う表情に出会って、カカシは何故か眉をひそめた。

「なんだかなあ……」

どんどん自分の知らないサクラになっていってるような、そんな気がした。
これからいろんなものを吸収して、成長していく。

オレは、いろんなものを失っていくばかりなのにな……。

特に法則もなく上や下に視線を動かしながら、ただぼんやりと緑色の視界に青い点が迷い込むのを待っていた。

木にもたれかかると、ひんやりとした温度が体の中に入ってきた。
首だけで振り返ると、遠くの方ではサクラが一所懸命に蝶を探している。


青い蝶なんて、いるわけない。


心の奥で全否定している自分がいる。

でも、何故ここにいるんだろう。


カカシは目を閉じた。きっとサクラは瞬きする時間も惜しんで蝶を探しているだろう。
目を閉じても、そんなサクラの姿だけはしっかり見える。


……うらやましいんだ。

そんな風にまっすぐに何かを信じられること。

そんな風にまっすぐに誰かを想えること。


サクラを見ていると、自分の体が重く感じる。
いらないものが層になって、体を覆っているような気がする。

本音を隠して冗談で取り繕うことも、心を消して冷酷になりきることも造作ない。
年を重ねるということがそういうことなら、自分は十分過ぎるほど大人になってしまった。

「だから余計に感じちゃうんだろうね……」

目を閉じたまま、まぶたの向こうに意識を移す。


もし、本当に青い蝶がいたら?


「そうだな……」

ひとつ、何かに素直になってみることにするよ。


自問自答して、それがあまりにも馬鹿げていることに気づき、笑いを漏らしながら目を開けた。



「……いや、まさかね……?」


何度か瞬きをして、もう一度目を閉じた。
そして、再びゆっくりと目を開ける。

目の前には、深い海の色にも似た、青い蝶が静かに舞っていた。

「青い……蝶?」

空を見上げると、さっきまで流れていたオレンジの雲はすでに色を失っていた。
薄暗い森の中にふわふわと漂う蝶は、ぼんやりと光を帯びて、 まるでそこに存在していないようにも見えた。

……幻術にかかっているみたいだ


念のため幻術を解いてみたが、そこにいる青い蝶は動じることもなく、カカシの前を何度も往復した。

「……本物か」

サクラを呼ぼうと、森の奥に視線をやるも、いつの間にかサクラは暗闇の中に埋もれてしまっていた。

「なんでオレの前に現れるかねえ……」


お前を必要としているのは、オレじゃないんだよ。


焦点をゆるめてみても、視界の中の青は消えない。

目を閉じて見ても、そこにある気配は消えない。

カカシはさっきの自分への問いかけを思い出した。


−−ひとつ、何かに素直になってみることにするよ


「はは。無理無理」

あっさりと自分との約束を破って、カカシは青い蝶に向かって話しかける。

「他人の願い事も叶えてくれるんでしょ?」

青い蝶は肯定も否定もせずに羽ばたいている。


「それじゃあ、サクラの……」


オレの願いなんて何もない。

もともと、サクラが見つけたかった蝶なんだから。

この蝶はサクラのために現れたんだ。



青い蝶は、静かにカカシの言葉を聞いていた。
そして、うなづくように羽ばたいて、どこかへ飛んでいった。




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