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それにしても青い蝶か……
当てもないものを一体どうやって探せばいいのか。
森に向かう道すがら、どれだけ考えても何も思いつかない。
まるで雲をつかむような話、いやそれ以上かもしれない、とカカシは小さなため息をついた。
鬱蒼とした森が近づくと、サクラは少しだけ歩みを遅め、カカシより2歩ほど後ろからついてきた。
「何だー? びびってんのか?」
「だっ、大丈夫!」
ぶんぶんと頭を何度か振って自分を奮い立たせて、サクラは深い緑色が幾重にも混ざり合う森へと進んだ。
「さて」
腕組みをしたまま頭上を見上げると、高く伸びた木々が空を切り取っている。
そこに流れていく雲はすでにオレンジ色に染められていた。
「なるべく離れすぎないように、もし蝶を見つけたらすぐに合図できる距離を保とう」
「うん」
薄暗い森の色にひときわ浮き上がるピンク色の髪は、目を細めても見つけられるだろう。
サクラが森の奥へと入っていくその後ろ姿に、カカシは声をかけた。
「サクラ」
「ん?」
「見つかるといいな」
「うん!」
にっこりと笑ったサクラの目はすっかり乾いて、きらきらと輝いて見えた。
また今までとは違う表情に出会って、カカシは何故か眉をひそめた。
「なんだかなあ……」
どんどん自分の知らないサクラになっていってるような、そんな気がした。
これからいろんなものを吸収して、成長していく。
オレは、いろんなものを失っていくばかりなのにな……。
特に法則もなく上や下に視線を動かしながら、ただぼんやりと緑色の視界に青い点が迷い込むのを待っていた。
木にもたれかかると、ひんやりとした温度が体の中に入ってきた。
首だけで振り返ると、遠くの方ではサクラが一所懸命に蝶を探している。
青い蝶なんて、いるわけない。
心の奥で全否定している自分がいる。
でも、何故ここにいるんだろう。
カカシは目を閉じた。きっとサクラは瞬きする時間も惜しんで蝶を探しているだろう。
目を閉じても、そんなサクラの姿だけはしっかり見える。
……うらやましいんだ。
そんな風にまっすぐに何かを信じられること。
そんな風にまっすぐに誰かを想えること。
サクラを見ていると、自分の体が重く感じる。
いらないものが層になって、体を覆っているような気がする。
本音を隠して冗談で取り繕うことも、心を消して冷酷になりきることも造作ない。
年を重ねるということがそういうことなら、自分は十分過ぎるほど大人になってしまった。
「だから余計に感じちゃうんだろうね……」
目を閉じたまま、まぶたの向こうに意識を移す。
もし、本当に青い蝶がいたら?
「そうだな……」
ひとつ、何かに素直になってみることにするよ。
自問自答して、それがあまりにも馬鹿げていることに気づき、笑いを漏らしながら目を開けた。
「……いや、まさかね……?」
何度か瞬きをして、もう一度目を閉じた。
そして、再びゆっくりと目を開ける。
目の前には、深い海の色にも似た、青い蝶が静かに舞っていた。
「青い……蝶?」
空を見上げると、さっきまで流れていたオレンジの雲はすでに色を失っていた。
薄暗い森の中にふわふわと漂う蝶は、ぼんやりと光を帯びて、
まるでそこに存在していないようにも見えた。
……幻術にかかっているみたいだ
念のため幻術を解いてみたが、そこにいる青い蝶は動じることもなく、カカシの前を何度も往復した。
「……本物か」
サクラを呼ぼうと、森の奥に視線をやるも、いつの間にかサクラは暗闇の中に埋もれてしまっていた。
「なんでオレの前に現れるかねえ……」
お前を必要としているのは、オレじゃないんだよ。
焦点をゆるめてみても、視界の中の青は消えない。
目を閉じて見ても、そこにある気配は消えない。
カカシはさっきの自分への問いかけを思い出した。
−−ひとつ、何かに素直になってみることにするよ
「はは。無理無理」
あっさりと自分との約束を破って、カカシは青い蝶に向かって話しかける。
「他人の願い事も叶えてくれるんでしょ?」
青い蝶は肯定も否定もせずに羽ばたいている。
「それじゃあ、サクラの……」
オレの願いなんて何もない。
もともと、サクラが見つけたかった蝶なんだから。
この蝶はサクラのために現れたんだ。
青い蝶は、静かにカカシの言葉を聞いていた。
そして、うなづくように羽ばたいて、どこかへ飛んでいった。
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