a day under the tree 6

no title 〜過ぎゆく時間〜

KAKASHI×SAKURA

 

 

なんていいお天気なんだろう。


太陽が木々の間からきらきら降り注いでいる。
眼下の里は、生ぬるい風にくすぶって、なんだか幻想のように見える。

ぼんやりと視界の中に入ってくるものはすべて、これまでに何度も目にしたことのあるものばかり。
ごく当たり前の風景の中に、当然のように配置されている。
それなのに、なぜ。

「……空ってこんなに青かったっけ」

抜けるような青空を仰いで、サクラはつぶやいた。
さっきからひっきりなしに鳴き続けている鳥の声が気になる。
鳥とはこんなにもおしゃべりな動物だったのか、と。

サスケが里を抜けてずいぶんと時間が過ぎた。暦にしてみれば、ほんの数か月。
しかしそれはサクラに取ってはとてつもなく長い時間のように感じた。
その一方で、修行のためにもっともっと時間が欲しい、と思ってしまう。
目まぐるしい毎日を一歩離れて、この木の下に座ると、世界はこんなにものどかだったのかと驚く。

まるで何事もなかったかのように。
昨日はすでに人々の記憶から去り、誰もが今日という日を消費していく。
そして明日が来ればまた、今日は捨て去られてしまう。

一歩ずつ昨日から遠ざかるのが虚しい。
そして一歩ずつ迫ってくる明日から逃れられない。

このまま、ここにとどまり続けられたら……。

一瞬、そんな弱音がサクラを支配しそうになったが、焦点を合わせ、
キッと睨むように中を見据えてそれを振り払う。

「ダメダメッ! 強くなるんだから……」

力を込めて見つめる空の色は急に鮮やかさを欠いたように見えた。
脱力して木の幹にもたれかかると、大きなため息をつく。

辛いのは私だけじゃないんだから。

再びぼんやりと景色を眺める。視界には誰もいない。
にぎやかにさえずっている鳥の姿さえ見えない。

目を閉じて、再び開けたら、世界にはもう自分しか存在していないかもしれない。
そう思って実際に目を閉じ、ふたつほど数えてゆっくりと目を開けた。

「……」

言葉にならない思いが、体の中をかけめぐった。

……これが孤独というもの?

「……違う」

孤独はこんなものじゃない。

私が想像していた孤独は、こんなものじゃない。
涙すら出てこない、この状態は孤独なんかじゃない。


……サスケくんがいなくなったら、もう何も残らないと思った。何もできないと思ったのに。

今はただ、ぽっかりと心に穴が空いたような、そんな感覚しかない。
なんでだろう。

……私には、本当の孤独の意味はわからないのかもしれない。

ナルトや、サスケくん、砂隠れの我愛羅……。

彼らの孤独は、想像よりももっと暗くて、重くて、悲しいに違いない。
誰かを憎み続けることで自分の存在意義を確かめるような。
孤独というのは、そういうものなのかもしれない。

私はきっと、幸せな人間なんだ。何も知らない平和な人間だったんだ。

そう思ってサクラはもう一度目を閉じた。

たとえ今、視界の中に誰も映らなくても、私は感じることができる。
誰かと強くつながっているということを。

風の音に混ざって、さまざまな声が聞こえてくる。

−−サクラ、モタモタするんじゃない! さっさと修行を始めるぞ!

−−やっほー、サクラ〜。あんたちょっと太ったんじゃない?

−−サクラ、ちゃんと食べなさい。ダイエットばっかりしてたら、体がもたないわよ?

みんなが私を呼ぶ声が聞こえる。
私はいつも、師匠やシズネさんと一緒にいて、外に出ればいのやヒナタや、シカマルたちがいて、 家に帰れば両親だっている。

「私は孤独じゃないんだ……」

今になってようやくそれがわかって、改めて心に空いた穴の存在を確かめる。

抜けるような青空に、真っ白な雲が流れていく。
どこまで流れていくのか、一時思いを馳せる。

いつか、この気持ちも行き着く先があるのだろうか。
過ぎていく日々と、これからやってくる新しい日々が、心の空白を埋めていくのだろうか。

今はまだわからないけれど、私にはやらなければならないことがたくさんあるから。

「……うん」

少し、この時間に身をゆだねてみよう。
サクラは思った。

この空の下のどこかで、ナルトもきっと修行をがんばってる。
だから私も、がんばろう。

−−よっ! サクラ

ちょっと間の抜けた声が聞こえたような気がして振り返る。
しかしそこには誰もいなかった。

「そういえば、全然見かけないなあ……」

カカシ先生も任務ばかりの毎日なんだろうな。

それにしても、サスケくんがいなくなって、ナルトが修行に出て、今木の葉の里に残っているのは私とカカシ先生だけなのに。

「きっと忙しいんだろうな……」

カカシ先生がいてくれたら……

こんな哲学じみた、複雑な気持ちを聞いてもらえるのに。
それで、笑ってうなづいてくれるのになあ……。

それだけでも、すごく救われるような気がする。

気がするのに……。

サクラはひざを抱えて、その上に耳をつけた。


……カカシ先生に会いたいな。

会って、話がしたい。

他愛もないことでいいの。

ただ、話したいだけ。

先生はいつも、私が困っているときに現れて、私を癒やしてくれるから。


「カカシせんせー……」


小さく名前を呼んでみたけど、そこに偶然は起こることはなかった。




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