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「おー、サクラ」
早足で歩いているところをかったるそうな声で呼び止められ、サクラは少し不機嫌な顔で振り返った。
「こえー顔」
声の主は首をかしげて、斜めからサクラを見てそう言った。
「何よ、シカマル」
会話をしながらも、サクラの足は進み続けていた。
シカマルはそれに合わせてだらだらとついてくる。
「お前、中忍試験どーすんだ?」
「え? もうそんな時期なんだ……」
一瞬だけ立ち止まり、シカマルの顔をじっと見たかと思うと、サクラはすぐにきびすを返してせわしなく歩き始めた。
「おい、ちょっと待てって。何急いでんだ?」
少し離れてシカマルの声が聞こえたが、サクラはお構いなしにずんずんと歩みを進めた。
中忍試験かあ……。
ちょうど1年前のさまざまな出来事がフラッシュバックする。
「おいサクラ、それで」
シカマルの声をさえぎるように、サクラは大きな声で返した。
「カカシ先生に相談してみる!」
そう、今日はカカシが任務から帰ってくる「はず」の日。
サクラも少しずつ任務が入るようになり、しばらく里を離れたときに限ってカカシが帰還したり、
サクラがようやく戻ったかと思うと、カカシが任務に出た直後だったりと、とことんタイミングの悪い状況が続いて、はや1か月になろうとしていた。
……今日こそはカカシ先生に会えるはずなんだから。
拾い集めた情報から推測するに、そろそろカカシが火影室にやってくるころ。
今日こそはつかまえようと、サクラは調べものもそこそこに図書室を飛び出したところだった。
「だから、そのお前んとこの先生と話してたんだよ、さっき」
「えっ!?」
たくさんの人が行き交う雑踏の中で、サクラの耳からはすべての音が消えたような気がした。
ゆっくりとシカマルが近づいてきて、話を続けた。
「第2班はオレだけ先に中忍になっちまったし、お前んとこの第7班は今んとこお前一人だし?」
スリーマンセルでしか受ける資格のない中忍試験にエントリーするため、第2班のチョウジ、いのと第7班のサクラの3人でチームを作ったらどうか、とアスマがカカシに話を持ちかけたという。
「お互い問題がなけりゃ、試験に向けて少し特訓した方がいいんじゃないかってよ」
そんなシカマルの話はサクラの耳にはほとんど入ってこなかった。
……カカシ先生、なんでそんな大切な話を先にアスマ先生やシカマルたちにするのよ?
「なんだ、まだ聞いてないのか」
「……そっ、そんなの」
「まあ、カカシ先生は……」
シカマルが言いかけたところで、サクラは自分でも驚くほどの大きな声を出した。
「そんなの、人の知らないところで勝手に決めないでよっ!!」
通行人たちが足を止めて、会話も止めてサクラとシカマルに注目した。
しかしそれには目もくれず、サクラは走り出した。
「おい、だから、お前の先生は」
背後にシカマルの声を置き去りにして、サクラは一目散に走って行った。
残されたシカマルは、周囲の好奇の目にさらされた。
きっと誰もが、初々しいカップルの痴話げんかだと思ったのだろう、こそこそ話しながら見ている主婦もいれば、ニヤニヤと笑っている店主もいた。
「……”サクラの気持ちをちゃんと聞いてから”って言ってたっつーの」
めんどくせー、と心の中で一言吐き出してから、シカマルは視線の集中砲火を浴びながらその中に消えて行った。
「人の話は最後まで聞けよなー……だから女ってのは……」
勢いよく火影室の扉を開けると、そこには確かに懐かしい後姿があった。
「お、来たな」
サクラの方を向いていた綱手が口角を上げて笑った。
「よっ! サクラ」
振り返ったその人物は、まるで時を感じさせないほど以前と変わらない声のトーンでそう言った。
サクラは本を抱えたまま、言葉もなくその場に立っていた。
「どうした? サクラ」
サクラの様子に先に気づいた綱手が声をかける。
「……」
のーてんきな笑顔を目の前にして、嬉しいとかそういう気持ちよりも先に怒りがこみ上げ、サクラはわなわなと、手を握りしめた。
なかなか言葉を発しないサクラを不思議に思い、カカシは首だけ振り返っていたその姿勢を正して、ゆっくりとサクラの方に体を向けた。
その瞬間。
「バカッ!!!!」
さっきのシカマルに怒鳴ったときよりもさらに大きな声で、サクラは叫ぶと、持っていた本を側にある机の上に荒々しく置いて、部屋を飛び出して行った。
綱手、カカシ、そしてシズネはしばらくの間両耳を手で押さえていた。
足元では、シズネの腕から突然落とされたトントンが驚いて、部屋のあちこちにぶつかりながら走り回っていた。
「……どうしたんでしょうね、サクラのやつ」
意味がわからない、とカカシはサクラが飛び出して開けっ放しになった扉を見ながら言った。
「……お前が待たせ過ぎたんだろう」
綱手は大きなため息をついた後、頭を左右に振って三半規管を正常にしようとしていた。
「はぁ……でも、待っていたのはオレの方ですよ?」
カカシのとんちんかんな答えに、わかってない奴め、と綱手は心の中でつぶやいた。
カカシは相変わらず頭をかいたり、腕を組んだり、口に手を当てたりして考え込んでいる。
「とにかく、追いかけた方がいいんじゃないか? 行き先はわかってるんだろう?」
「まあ、そうですねぇ……」
のろのろと動き出すカカシのふがいない背中を見て、綱手はこっそりともうひとつため息をついた。
……まったく、鈍いにもほどがある。これだから男というのは……
「いやー、参ったな……何であんなに怒ってるんだ?」
特に急ぐ風でもなく、カカシは迷うことなくひとつの場所を目指す。
久々に見たサクラは、少し髪が伸びて、大人っぽくなっているような気がして、妙に嬉しかった。
ほくほくと満足そうに笑って、カカシはのんびりとサクラが待っているであろう場所へ向かう。
「ま、何はともあれ、サクラは元気いっぱいだな」
未だに自分に原因があるなんて思いもしない、カカシだった。
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