喫茶ブルー・ブルー・ブルー wondering 30's
SANJI on ZORO × NAMI
賑やかな通りを一本外れた、住宅街の一角にある水色屋根の小さなお店。
石畳を通ってポーチにたどり着くと、もうコーヒーのほろ苦い、スイーツの甘い香りが漂っている。
「やあ、いらっしゃい」
慌しいランチタイムが過ぎ、一服したらティータイムの準備だ。
素敵なレディーのために、オレは心を込めたデザートを作る。
だから午後の時間の店内は楽園のようだ。
かわいい女の子たちが連れ立って訪れては、おしゃべりに花を咲かせている。
コーヒーとパスタとスイーツが売りの「喫茶ブルー・ブルー・ブルー」はレディーのためのカフェなのだ。
「おーっす、マスター! メシーッ!」
「ランチタイムは終わったぞ、ルフィ」
「いいじゃんかよーう。残ってるもんでいいからさー」
「あと、そんな汚れたカッコで入ってくんな」
「ちぇー。じゃあ着替えてくるよ」
そう言ってルフィは遠慮なく店のトイレへと入っていった。
ドロドロの野球のユニフォームはおよそこの店のイメージにゃ合わねえ。
ほらみろ、楽しそうだった女の子たちがびっくりしてこっちを見てる。
そもそも、この店は女性同伴じゃないと男は入れねえっつの!
だからルフィが来たということは……。
「こんにちは、マスター!」
あ、やっぱり来た。
「ナミさん!」
目尻の筋肉が重力への抵抗を失って、へろんと下がる。
早速目の前のカウンターを丁寧に拭いて、彼女を指定席へとお招きする。
そしてすぐにティーポットとカップを温め、ミルクパンを火にかける。
喫茶ブルー・ブルー・ブルー特製「ロイヤルミルクティー Scene オレンジパラダイス」
もちろん、メニューにはない。わかりやすく言えば「ナミさんスペシャル」だ。
この店の常連様、オレの一番のお得意様なんだ。
ついでに言うと、このロイヤルミルクティーは「ウエルカムドリンク」さ。
「おまたせ、ナミさん!」
カウンターで頬杖をついて、オレの一連の動きを見守っていたナミさんは、目の前に出されたやわらかな香りを胸いっぱいに吸い込んだ。
「さんづけで呼ぶのやめてよ、マスター。私の方がずっと年下なのに」
そう言って照れながら肩をすくめる仕草がまたなんともかわいらしいんだ!
「年なんて関係ないよ。素敵なレディーに敬意を払うのは当然!」
「マスター、メシーッ!」
いつの間にかナミさんの2つ隣に座っていたルフィが、カウンターをばんばん叩きながら言った。
「待ってろ。今作ってやるよ」
そう言ってオレは大鍋に水を入れて沸かし始める。
「ウソップがいねえみたいだから、きのこスパにすっか?」
「おうよ! 肉も入れてくれ!」
「わかったよ」
ナミさんはオレとルフィの会話を聞いてくすくすと笑いながら、「じゃあ私はフレンチトースト」と言った。
近くの大学に通うナミさんとルフィ。それと今はいねえがウソップ。
この3人は幼稚舎から小中高、大学までずっと一緒の幼なじみだ。
オレがこの店を開いた頃は高校に入りたてで、あまり小遣いも持ってねえのに、よくコーヒーを飲みに来てくれた。
当時からルフィはよく食うヤツだったから、オレは余った食材で腹の膨れるもんを作ってやった。
ナミさんは、高校生のころからすげえかわいい子だったけど、大学に入って化粧をするようになって、制服から私服に変わったら、いっそうかわいくなった。
いやあ、オレがあと5歳くらい若かったらな。
なんて思うこともしばしばあるんだ。
「悪りィ! 遅くなったー!」
「ほんと、遅いわよ。私もう行かなきゃ」
息を切らして飛び込んで来たウソップに、ナミさんは冷たく言い放って、そして席を立った。
「これから練習?」
「うん」
「寒いのに大変だね」
「でも来月にはもう競技会だから」
カウンターに勘定を置いて、コートを羽織るとナミさんは「ごちそうさま」と言ってドアに向かった。
「あ、ナミさん待って!」
カラン、とドアのベルを鳴らしかけたナミさんを呼び止めて、オレは焼きたてのスコーンが入った温かい紙袋を手渡した。
「練習が終わったら食べなよ」
「わあ、ありがとう! こんなにいっぱい?」
嬉しそうに両手で丁寧に紙袋を持って、そっと顔をつけるナミさんを、もう少しで抱きしめてしまうところだったが、オレは苦笑しながらタバコに火をつけた。
「まあ……アイツにもやんなよ」
そう言ったらさっきよりもずっと嬉しそうな顔で「うん」ってうなづくんだ。
いいよな、チクショー。
目の前にいるオレよりも、いないアイツの方がナミさんの一番の笑顔を引き出せるなんてよ。
「ありがと、マスター!」
ナミさんは勢いよくドアのベルを鳴らして出ていった。
「うう、あんなヤツに持っていかれるくらいなら、オレが先に告白するべきだったぜ!」
わざとらしくさめざめと泣くフリをすると、ルフィとウソップがわははと笑った。
「マスターみたいなオヤジじゃ、振られるに決まってんだろ」
「あぁ? 今なんつった? オラおめーら! ヤローだけじゃこの店にはいられねえんだ、さっさと出てけ!」
「待ってくれよ、マスター。オレまだ何も食ってねえよ」
ウソップが腹を押さえて何か作れと訴えた。オレはこれみよがしにキノコを手に取ると、ウソップは背筋をしゃんと伸ばして、「作ってください、お願いします」と丁寧に頭を下げた。
NEXT