喫茶ブルー・ブルー・ブルー 2 wondering 30's
SANJI on ZORO × NAMI
ナミさんは大学に入学すると、漕艇部に入った。そこで「コックス」とかいうのをやってるらしい。
オレの頭で理解したところでは、なんだ、アレだ。「ガレット」?
「レガッタ」か。
数人で船を漕いで競争するあれだ。
コックスってのは、ホラ、メガホン持って漕いでるヤツらを指示する役割らしい。
本当にメガホン持ってるかどうかは知らねーが。イメージだ、イメージ。
そこでナミさんはヤツと出会った。
もちろん、ナミさんはもともとかわいい子だったけど、ある時から急に色っぽくなったから、「恋でもしたのかな?」と冗談っぽく言ったら、顔を真っ赤にして、「マスターには隠し事できないわね」なんて言われちまったんだ! そんときのショックっつったら、なかったぜ……。
「……でね、人が話してるのに大イビキかいて寝てるのよ、アイツったら!」
カウンターでミルクティーをぐるぐるぐるぐるかき混ぜながら、ナミさんはいつもヤツの文句を言っていた。
その表情は怒ってはいるものの、十分なノロケだな、なんて思いながら、オレはタバコをくわえて笑う。
「一度連れておいでよ、彼を」
そう言ったときのナミさんの驚いた顔が忘れられない。
「……いいの!?」
「そりゃもちろん」
「マスター嫌がるかと思った……」
「そりゃあ……」
そんなの、イヤに決まってるけどさ。
でも、ナミさんが惚れる男ってのは、一体どんなヤツなのか、興味だってあるんだ。
そんでナミさんがいつヤツを連れてきたかっていうと。
「えっと、彼はロロノア・ゾロって言うの。ゾロ、こちらはこのお店のマスター、サンジさん」
「……うす」
「ああ、どうも。ようこそいらっしゃい」
無愛想な緑頭のイカツイ男は、ぶすっとした顔でオレをちらっと見ただけだった。礼ぐらいしろよな。
ボートの漕手らしく、肩から腕にかけての筋肉の隆起が、服の上からでもよくわかる。
とりあえずふたりをカウンターに座らせて、ウエルカムドリンクのロイヤルミルクティーと、ヤツにはコーヒーを出してやった。
「マスター、あれ、お願い」
少し恥ずかしそうにオレに目配せをしたナミさん。
「あいよ」
オレは笑顔の裏側で舌打ちしながら、デザートプレートを取り出した。
何だってまた、バレンタインデーに連れて来るんだよー。
そんでもってオレに「バレンタインスペシャルデザートプレート」を作ってくれだなんて!
「おまちどうさま」
それでもオレはナミさんのために渾身の「作品」を作った。チョコレートケーキはもちろん、小さなパイにアイスクリームを乗せて、さらにその上に飴細工のドームを施して。ちゃんとヤツの口に合うように、甘さは抑えて。
名づけて、「恋の罠、溶ろけるハートの袋小路」
これでヤツのハートをがっちりゲットだ、ナミさん! ……それも悲しいが。
まずナミさんがプレートを受け取って、そしてヤツの前に置いた。
「……私から。バレンタイン」
もごもごっとそう言ったナミさんの顔は真っ赤で、ヤツは頬の肉を持ち上げるくらいに頬づえをついて眉をひそめた。
じーっとしばらくプレートを見ていたヤツは、ちらっとナミさんの方を見て、ずいっとそれをナミさんの前に押しやった。
「お前食え」
「え……」
ナミさんの表情が一瞬で曇った。瞳が潤む。
「おいコラ! せっかくのナミさんからのバレンタインプレゼントだぞ? ちゃんと食ってやれよ!」
思わずカウンターから身を乗り出してオレは怒鳴った。そうしたら、ヤツはジロリとオレを睨み返しやがったんだ!
なんて男だ! なんでナミさんはこんな男が好きなんだ!?
「お前、こういうの好きだろ? オレは……気持ちだけもらえりゃそれでいい」
ナミさんの顔をまともに見ることもせず、ヤツは小さな声でそう言った。ヤツの顔も真っ赤だった。
「うん……」
ナミさんが嬉しそうにうなづくと、ヤツは「コーヒー」とオレに向かって言った。
オレは再び心の中で舌打ちしつつ、コーヒーを入れる。
確かに、このデザートプレートは、ナミさんの好きなもんばっかり乗せたんだ。
「マスター、これ、とってもおいしい!」
ほくほくとした顔でオレに笑いかけるナミさんといったら、とてもかわいくて。
それを横目で見ているヤツの口元にも笑みが浮かんでいた。
「どういたしまして」
ガシャン、と音を立てて、ヤツの前にコーヒーを置いた。
「あ、あのね。マスターにも……」
そう言ってごそごそバッグの中を探って、小さな箱を取り出した。
「はい! チョコじゃないけど……」
「あ、ありがと!」
オレもまた顔を赤くしてそれを受け取った。ヤツにまた睨まれたが、今日はバレンタインデーだ。オレにだってもらう権利はある。
毎年毎年ナミさんは必ずオレにプレゼントをくれる。コックにチョコレートをあげるのは気が引けるといって、ライターとか、灰皿とか、ネクタイとか。
バレンタインと誕生日には必ずもらっていたんだ。だからオレはホワイトデーにはキアイを入れてお返しをしている。
今年はマグカップだった。オレは早速それにコーヒーを入れて、ニコニコ笑いながら口をつける。
目の前では中学生みたいな初々しい男女が会話もなく座っている。お互いに照れながら、口に出したい言葉を考えすぎて結局何も言えなくて。
いいよなー。青春だよなー。
30男にゃもう、こんな恋愛はできねーのかなぁ。
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