喫茶ブルー・ブルー・ブルー 3 wondering 30's
SANJI on ZORO × NAMI
「おめでとう、マスター!」
そう言って祝ってくれたのは、ルフィとウソップの2人だけだった。
ナミさんは合宿で信州の方へ出かけていた。もちろん、アイツも一緒だ。
「ヤローどもに祝われてもなあ。それにおめーら! ナミさんがいねえのに店ん中に入ってくんな!」
「オレらは特別だろー?」
ルフィが罪のない笑顔で笑ってそう言ったから、オレは自分が誕生日ということもあって大目に見ることにした。
「マスターもいい加減結婚しろよ」
ウソップはいかにも嫌味っぽく、ニヤリと笑って言った。
「あぁ? オレはまだまだシングルライフを楽しむんだよ!」
「ナミにだって男ができたんだからよ、これで安心しただろ?」
「それは言うな!」
「本当に手ェ出してたら、犯罪だかんな」
オレが作ったケーキにルフィがろうそくを立て、ウソップが火をつけ、それをオレが吹き消すという、意味のない儀式を行った。だんだんと穴だらけになっていくケーキの表面に、おもわず生クリームを塗りつけたくなった。
「でもよう、ナミはマスターが好きだったんだよな!」
ルフィがまたしても罪のない満面の笑みでサラリとそんなことを言ってのけた。
「なにぃ!?」
「好きってーか、憧れてたんだよな」
ウソップがそれをすかさず訂正した。
「オレら、幼稚舎からずっと一緒だから、きょうだいみたいな感覚しかねえし、ナミは人より大人びてるから、高校んときの同級生なんてガキに見えたんだろーな。だからマスターみたいな大人に憧れてたんだよ。まあ、相手にしてもらえねえと思ってたみたいだけどな」
「ただのオヤジなのにな! しししっ!」
「おめーら、何でそれを早く言わねえんだよっ!」
よく伸びるルフィのほっぺたをぐにーっと引っ張りながら、オレはウソップを睨みつけた。
すると、ウソップはきょとん、としてオレに「マスター、マジだったのか?」と聞いてきた。
「マジも何も……」
それこそ、さっきウソップが言ったように、30近い男が高校生に手ェ出すわけにゃいかねえと思って、ガマンしてたんだ、オレは。
「あー、何て惜しいことをしたんだ、オレはっ!」
本気で落ち込んでいたところに、またしても罪のないルフィの言葉がダメ押しになった。
「マスター、女グセ悪りィからな!」
撃沈。
だってよぅ、手の出せない子と手の出せる子だったら、出せる方にフラフラ行っちまうのが男の性じゃねえかよー。
ガードの固い子よりも、24時間オープンの子の方がいいに決まってんじゃんよー。
「そろそろ落ち着こうぜ、32歳!」
「うるせぇ!」
くうう。悔しいぜチクショー。
オレが努めて大人ぶっていたのがすべて、ナミさんにしてみれば相手にされていないと思わせる要因だったんだろうか。
もっと、年甲斐もなく好き好き言ってりゃよかった。
「マスター!」
店を閉めた後、買い物に行った帰り道、名前を呼ばれて振り返ると、白い息を吐いてオレを追いかけてくるナミさんがいた。
「ナミさん」
はあ、はあ、と息を切らして、ナミさんはオレの目の前で肩を揺らして息を整えた。
「お誕生日おめでとう!」
そう言って、大きなバッグから小さな箱を取り出してオレに手渡した。
この大荷物を見るからに、合宿から戻ってそのままオレのところに来てくれたんだな。うれしいねえ。
「ネクタイピン。私がおととしあげた黄色のネクタイに合いそうだなーって思って」
「……ありがと」
タバコをくわえたまま、オレは口角をぎゅっと締めた。
『ナミさん、まるでオレの彼女みたいだね』
そう言いたかったけど、必死で飲み込んだ。アイツと一緒の時間の中でほんの少しでも、オレのことを考えてくれただけで嬉しいよ。
「合宿、楽しかった?」
「え? う……うん」
「あれ? その顔は楽しくなかったって顔だけどなー? 彼と何かあった?」
「……マスターにはやっぱり隠し事、できないわね」
そう言ってナミさんははにかんだ。
「もうね、アイツったら! せっかくの自由時間なのにガーガー寝てばっかりで! 無理矢理連れ出して外を歩いても、手も繋いでくれないし! それに……」
ナミさんの不満は途切れることなく吐き出された。
「今日だって、解散してから一緒にごはん食べようって言ったのに……」
しゅん、とうつむいてナミさんは悲しそうな顔をした。
「帰っちゃったんだ?」
「そう! 眠いからって……もうっ! だから思いっきりひっぱたいて帰ってきたの」
そこで、ナミさんはようやく息を吸って、そして口を尖らせたまま黙り込んだ。
「……でも、好きなんだ?」
「うん……何でだろ」
そんなの、オレが知りてーよ。
心の中でそう思いながらも、オレは大人びた笑顔で、ナミさんの肩をポン、と叩いた。
「好きなのに理由なんてないよ、きっと。……特に若いときはね」
「ん」
顔をあげて、嬉しそうに微笑んだナミさんを見て、オレも何故だか嬉しくなった。
たとえ他の男のことを想っていたとしても、恋をする女の子はキレイなんだ。
「ありがと、マスター」
「ん、何が?」
「いろいろ、いっぱい」
「はは、どういたしまして」
ナミさんを駅まで送り届けて、改札の手前で、ナミさんが見えなくなるまで手を振った。
なんか、恋人同士みたいだよなー。他の人から見たら、オレたちってそう見えるかもしれないよなー。
そんな虚しいことを考えてみたり。
店に戻ると、外灯の下に怪しい影が。
「おや?」
でっけー荷物を抱えて、ウロウロしているガタイのいい男。
「ナミさんの彼氏君じゃねーか」
「……うす」
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