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パーフェクト・スター パーフェクト・スタイル

ZORO x NAMI


世の中にはこんな完璧な女がいるもんなのか。
そんときはさすがのオレも、教師という立場を忘れて一瞬見入ってしまったくらいだ。

セミの鳴き声がやたらとうるさい、夏の日のことだった。

「ぶっ! はははは……!」
そいつはオレの顔を見るなり、腹を抱えて大声で笑い出した。

「ちょ、ちょっと何? あの先生、竹刀持ってる! しかも3本……今どきあんなマンガみたいな体育教師いないわよ。ウケる〜! はははは……」

そいつの名前は、「ナミ」といった。

「なんだこいつ?」
思うよりも先に言葉がこぼれていた。

”転校生だよ、先生。チョーかわいいっしょ?”

男子生徒が耳打ちしたが、オレは聞こえないフリをした。

「お前、スカートは短けェし、シャツのボタン、どんだけ開けてんだ?」

一緒にいた女生徒がたしなめる。

「せんせー、ナミはこの学校に来たばかりなんだ、勘弁してやってよ〜」
「あァ? 関係ねェだろうが。お前らもちゃんと教えてやれよ」

くすっ

「ナミ」は小さく笑ってから、オレの前に胸を突き出すように近づいた。
「先生、私のスカートの中が気になる? ボタンを外していると胸元が見えて困る?」
「あァ?」

こいつ、明らかに挑発してやがる。

「まさか先生が学校の中で生徒にムラムラしたり? やだあ〜」
「ふざけんなっ!」
思わず3本の竹刀を振り上げる。
慌てて周りの生徒たちがオレとナミを引き離した。

ったく、なんて女だ。

「おいナミ、お前の名前覚えたからな」
スカートをひるがえして去っていく後姿に投げつける。

まぶしいオレンジの髪が、光の中に残像を落としていた。



* * *


「ぶっ! はははは……! だっせぇ」

ぐるぐる眉毛のクソコックが、あの女と同じように笑いやがった。
コーヒーカップがソーサーの上でカタカタ揺れて、コーヒーがなかなか注がれず、見かねたロビンが思わずたしなめる。
「笑いすぎよ、コックさん」
「確かにあの学校で、ゾロを手玉に取るなんて、いい根性してる子じゃねえか」
「誰が手玉に取られたって? ウソップ」
睨みをきかすと、ウソップはやれやれと両手を上に上げて、降参のポーズを取った。
「どっかのヤンキー校の、一番のワルをフルボッコにして更正させた伝説の教師、ロロノア先生にはかないません」
「アホ。いつの話だ」
「3年前だったかしら?」

チッ、と舌打ちをしてオレは黙りを決め込んだ。
思い出したくもねェ。
教師になりたての頃の話だ。
わけのわからねェ正義感にかられていたオレは、言っても聞かねェ奴には痛みでわからせてやるなどと言って、ところかまわず生徒に手を挙げていた。
地元の有力者のバカ息子をボコボコにしたときは、さすがに覚悟を決めたが、意外なことにそのバカ息子は頭の打ち所が良かったのか悪かったのか、人格が変わったように真面目になり、海上保安学校へと進学していった。
バカ親にも感謝されたが、オレにとってはいい迷惑だ。
おかげで、今の学校に変わっても、噂に尾ひれやら背ひれやらがついて、オレは教師からも生徒からも一目置かれてしまっている。

「……夜回りに行ってくる」
頭をがしがしとかきながら、立ち上がる。
「大変だなあ、ゾロも。今日は久々にみんな集まってんのに」
「つか、お前も帰っていいんだぞ、ウソップ? そしたらオレとロビンちゃん二人で……」
「あら、コックさんたら」

くだらねェ会話を背中で聞きながら、バラティエを後にした。
金曜の駅前通りは、酔っぱらいのオヤジやら、香水臭い女やらが交差しながら賑わいを作り出している。
ぼんやりとそれを1枚の絵のように眺めながら、その中に紛れ込んでいる制服姿を探す。
ときどき、ゲーセンやコンビニ前にたむろしている学生を見つける程度だ。
この中途半端な田舎町は、それなりに平和な方なんだろう。

そう思った矢先に、どぎついネオンサインの中に、見慣れた制服を見つけた。

いや、正しくはあのオレンジの髪を見つけたというべきか。

大口を開けて笑いながら、ナミはカラオケの店から仲間たちと出てきた。
かと思えば、大きく目を見開いて、驚きの表情を作り、そして嬉しそうに隣の女生徒と腕を組む。
コロコロ変わる表情が、いちいち気に障る、というか、気にかかるというか……なんつーか、要するに目が離せねェというか。
そんな葛藤にさいなまれているうちに、声をかけるタイミングを逃してしまったのだが、奇しくもオレが立っている方へと歩いてきたナミたちは、腕組みして仁王立ちしているオレの姿を見るなり、悲鳴を上げて走って逃げて行きやがった。

ったく、バケモンか、オレは。



* * *


「おいナミ、いい加減そのボタン2つ開けるのやめろっつってんだろうが」
「うーるーさーいー! 楽しみの少ないおっさんへのサービスよ」
「あァ? 誰がおっさんだァ?」
「26歳なんて立派なおっさんよ!」

それから、ほぼ毎日のように、廊下で顔を合わせては言い合いを繰り返す。
ナミのやつはいっこうに制服を直すつもりがないらしい。

「もう、なんで私にばっかり注意すんのよ、先生! 他に同じカッコの子いっぱいいるじゃん!」
「お前の場合、服装よりも態度の問題だ」
「何それ、わけわかんないし」

それはこっちのセリフだ。
聞けば前の学校ではかなり優秀な生徒だったらしい。
うちの学校はさほど荒れてはいないが、その中でもチャラい奴らとばかりつるんでいるのも引っかかる。

「まあ、この時期に転校してくるんだから、何か事情があるんじゃね?」
クソコックがタバコをふかしながら、興味なさそうに皿を洗っている。
「その子の話してるときのゾロは、さすがに先生に見えるけどな」
ウソップが皮肉っぽく笑う。
「あら、そうなのかしら?」
ロビンが意味深に笑う。

そこへ、勢いよく店の扉が開いた。
「いらっしゃいませ、ようこそバラティエへ」
クソコックが条件反射で頭を下げる。
「ちょ、6人座れる? 待ち合わせ」
気だるそうなしゃべり方の、見た目に気だるそうな男が数人、肩を大きく揺らしながら入ってきた。
「あァ?」
客の態度にコックの眉間にしわが寄る。
「あいにくですが、お客様。本日は大変混み合っていまして……」
「なんだよ、しけてんな」
あくまでも大人の態度で対応していたが、しばらく静かなやりとりがあったかと思うと、コックは最後にすごんでこう言った。
「2度とこの店に来るんじゃねぇぞ、クソガキが!」
さすがにビビったのか、男共は我先にと店の外へ逃げて行った。
その大声を聞いて、ウソップも思わず立ち上がったが、オレは気にせずコーヒーをすする。一言だけ皮肉を添えて。
「たく、大人気ねェな」
「あァ? 何だとこのクソマリモ……んいらっしゃいませ〜〜!!」
オレを睨みつけたかと思った瞬間、クソコックは目をハートにして入り口に飛んでいった。
好みの女の客でもやってきたか。
呆れながら振り返ると、コックの背中越しに、入ってきた女たちが言葉を失うのがわかった。

「せ、先生……!」
「あァ?」

そこには、うちの学校の女生徒が、ここぞとばかりにめかし込んで数人立っている。
そして、その中にナミもいた。
オレンジの髪にすぐに目がいってしまうのは不本意だが。
ナミは、オレと目が合うなり、ばつが悪そうにふいと視線をそらしてしまった。

「ちょっ、先生がいるなんて思わなかった」
「やばくない?」
女生徒たちは顔を見合わせた。
「何してんだ? こんなところで」
さすがにオレも、土曜日の昼間に遊んでいる生徒にどうこう言うつもりはない。
「えー……と、待ち合わせ…だけど」
しかし、妙に生徒たちはそわそわしている。
ナミは小さく肩をすくめると、「ごめん、私やっぱり帰るね」と言って、ふわりといなくなった。
それにつられるように、他の生徒たちも出て行った。

「何だ、あいつら?」
首をかしげているオレのもとへ、ウソップが戻ってきた。
「ゾロんとこの生徒?」
「まあな」

すっかり冷たくなった飲みかけのコーヒーを一気に飲み干す。
そこへ間髪入れずに、入れ立てのコーヒーがなみなみと注がれた。

「おい、クソマリモ。あの子だろ?」
「あァ?」
「お前が話してた、オレンジの髪の女の子」
「……だったら何だ?」

一瞬の沈黙が流れ、コックは大きく息を吸った。

「チョ〜〜かわいいじゃねえかよ! お前の話だけ聞いてたら大したことないのかと思ってたが。あれはかなりのモンだぜ?」
「えー、マジかよ? オレちゃんと見てなかった」
ウソップが今更ながら体を乗り出して扉の方を見る。
「ふふ、みんなかわいい子たちだったけど?」
「いや、あの子は別格だった! あれで高校生なんて信じらんねぇ!」

すっかりテンションの上がったクソコックが、オレの座っているカウンターに両手をついて顔をずい、と近づけてきた。

「頼む! あの子をオレに紹介してくれ!」
「あァ? 何でてめェの頼みなんか」
「高校ん時からのつきあいじゃねぇか」
「都合の良いときだけそう言いやがって」
「あの子と毎日学校で会えるなんて、てめェが憎らしい」

ひとしきり悪態をついたところで、オレは大きくため息をついた。

「……ったく、いい女と見れば、高校生でもお構いなしか」

「……は?」
「えっ!?」
「あら?」

コックはくわえていたタバコを床に落としそうになった。
ウソップとロビンも同じ速度でオレの方に顔を向けた。

「ゾロ? お前、今何て言った?」
ウソップが笑いをこらえながら、やらしい目でオレを見る。
「あァ? 何も変なこと言ってねェだろうが」
ロビンも笑顔でうなづく。
「そうね。とても素直な一言だったと思うわ」

わけわかんねェ……って高校生みたいな言葉を言いそうになった。
そこへ、コックがぽつりとつぶやいた。

「でも、彼女たち、あの男共と待ち合わせしてたみたいだな……あいつら、ちょっとやばくねえ?」

中学生の頃からこの界隈で暴れていたコックにとって、実家のバラティエがある駅前周辺は庭のようなもんだ。
新顔やよそ者に対しては敏感で、シマを荒らすような奴が現れると、風俗店のオーナーやら、高級クラブのママやら何やらがCIA顔負けの情報ネットワークで探りを入れる。

「あいつら見かけねえ顔だったな。いつも駅前でつるんでる高校生でもなかったぜ? お前んとこの生徒、気ィつけた方がいんじゃね?」
最近、近くの町で高校生の薬物使用が問題になっていた。こんな田舎町でも、油断しては行けないと職員会議で話があったことを思い出した。

「まさかな……」

嫌な予感を打ち消すようにつぶやいてみた。
「特にあの子は要注意だぞ!? 絶対目ぇ離すなよ?」
クソコックがオレを指さして、鼻からタバコの煙を吐いた。



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