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パーフェクト・スター パーフェクト・スタイル 3 

ZORO x NAMI


夏休みに入り、3年生の補講が始まると、校内でナミを見かける機会も少なくなった。
オレもインターハイに向けて、剣道部の猛特訓をしていたせいで、早朝から日が暮れるまで、道場にこもりっぱなしの日々だった。

「あれ以来、あのヤロー共はこの辺には現れなくなったぜ? S高の生徒も見かけねぇし」
脱水症状寸前の状態で一気に生ビールを飲み干し、おかわりを催促すると、クソコックは「人の話聞いてんのか?」とキレた。
「まあ、あいつらも最近じゃ学校に残って真面目に勉強してるみてェだから、ひとまず安心だろ」
「それより、一度ナミさん連れてきてくれよ〜」
「あァ? オレが誘うわけにいかねェだろうが」
「じゃあ、駅前にイケメンの超一流コックがいるバラティエってお店があるから、一度行ってごらん、って言えばいいじゃねえか」
「アホか!」
2杯目の生ビールもすぐに飲み干すと、コックは「こんな酒乱が教師だなんて、信じらんねえ」と悪態をついた。
「うるせェな。もう一杯よこせ」

そのとき、扉が開いて、コックはいつもの条件反射で「いらっしゃいませ、ようこそバラティエへ」と頭を下げた。
「おーっす、サンジ! ゾロ!」
入ってきたのはウソップだった。
「なんだ、ウソップか」
頭を下げて損した、と言わんばかりにコックは肩を落とした。
「なんだはねえだろ? せっかく客を連れてきたってのに」
ニヤリと笑って、ウソップは開いたままの扉を振り返る。
入ってきた人影を見て、オレはビール2杯で酔っぱらうほど疲れているのかと思ったくらいだ。

「あー! 先生!」
「なっ! ナミすわーん!!」
ナミの声にコックのマヌケな声が重なり、店内の客が何事かと振り返った。
「……何してんだお前?」
オレも空のジョッキを持ち上げたまま、固まってしまった。
久々に見たナミは、相変わらずスカートが短かったが、それよりも気になったのが、隣にいる連れだった。
「あ! 紹介するね。私のお姉ちゃん、ノジコっていうの」
「初めまして。先生のことはナミからよく聞いてます」
気の強そうな感じがナミとよく似ている。ナミの姉はオレを見て口元だけでふふ、と笑った。
何をどこまで話してんだか、と内心ヒヤリとしたが、テンションの上がりきったコックが踊りながらやってきて、さらうように二人を席に案内した。
「ところでコックさん、何で私の名前知ってるんですか?」
「あーそれはもう、あのクソマリモが毎日のようにあなたのことを……」
「おい! 余計なこと言うな、グルマユ!」
店内の客が今度はオレに注目した。ウソップが代わりに「すいません、こいつ酔ってるんで」と頭を下げた。
「やだあ、何をどこまで話されてるかわかんない。こわっ!」
ナミはオレが思ったのと同じようなことを言いながら、姉と顔を近づけてくすくすと笑った。
ウソップがウエイターから生ビールを2つ受け取ると、オレにひとつ渡してこう言った。
「ちょうど駅前で二人で何食べようって話してたんだよ。だから、超一流コックのいるオススメのお店がありますよ、って連れてきたんだ」
「イケメン」が抜けていたところにオレは親指を立ててやりたいところだったが、どうだと言わんばかりのウソップをカウンターの下で小突いた。
「お前、ナミのこと知ってて声かけたんだろ?」
「ああ、っていうか、オレの方からおたくのロロノア先生の友人ですって名乗ったぜ?」
「お前なあ……」
大きなため息をつきながら、頭をがしがしとかく。
「いいじゃん、サンジの料理はお世辞抜きでうまいんだし。今日は姉妹水入らずで過ごすんだと。むしろオレに感謝して欲しいくらいだけどな!」
「あァ? 何で」
ウソップはニヤニヤしながら、今度はオレを小突いてきた。
そっと振り返ると、クソコックがナミたちのテーブルに張りついてサービスをしている。
笑い声のよく混じる会話の中身はよく聞こえなかったが、あのグルマユのことだ、あることないこと盛りに盛って話してんじゃねェかと思うと、その後のビールの味もまったくわからなくなってしまった。

でも、ふっきれたように明るい表情になったナミを見て、少し安心した。
そして何故だか少し寂しくなったような気がした。


* * *



インターハイが終わり、3年生が部活を引退すると、慌ただしかった日々が一転して穏やかになった。
朝、体育準備室の鍵を開け、道着に着替えてから道場へ向かう。
もちろん、手には3本の竹刀。
そして午後はずっと部活の指導。
夜間と休日は、くいなの父親の道場を手伝い、何もない日はバラティエで酒を飲んだ。
金太郎飴のように代わり映えのしない毎日だったが、オレ自身は充実していたし、むしろ誰にも乱されないこのペースを楽しんでいた。
そして今日も、道場での自主稽古を終え、準備室のソファで一眠りしていた。
突然ガラリと勢いよく扉が開く音がして、オレは飛び跳ねるように起き上がった。
「ちょっと〜先生ったら、学校で居眠りってどうなの?」
重いまぶたを片目だけ無理矢理こじ開けて見ると、そこにはナミが立っていた。
「……何か用か?」
あまりにも突然のことにまだ頭が追いついていなかった。
ナミはすたすたと部屋の中に入ると、オレの向かい側のソファにすとんと座り、テーブルの上に音を立てて何冊もの参考書を置いた。
「学習室のクーラーが壊れちゃって」
「はァ?」
「で、みんな図書館に行っちゃって、勉強できる場所がないの。ここで勉強していい?」
「……は!?」
悪びれもせず、ナミはひょうひょうとそう言ってのけた。
「何言ってんだ? 教室で勉強すればいいだろうが」
ようやく開いた両目を慣らしながら、頭をがしがしとかく。その途端、「それ、困った時の先生のクセだね」なんて言いやがる。
ナミは立ち上がって、側にあったオンボロ扇風機を自分の方へ向けて、声をわざと震わせながら言った。
「教室なんて暑くてムリ! ここなら他に邪魔も入らなさそうだし、扇風機も独り占めできるし」
「お前なあ……オレの立場でハイどうぞ、って言えるわけねェだろ?」
「お願い! 本当に勉強するだけだから! 静かにしてるし」
両手を合わせて、ナミはいたずらっぽく片目を閉じた。
オレは頭に置きかけた手を意識的に戻して言った。
「……本当にちゃんと勉強するんだな?」
大きくため息をついて、オレは投げやりに「勝手にしろ」とソファから立ち上がった。

デスクに座り、ちらりとくいなの写真に目をやる。
やれやれ、相変わらず手のかかる生徒だ、と心の中で舌打ちしたが、写真の中のくいなはずっと笑っていた。
「せんせー、のど乾いた」
「あァ? お前おとなしく勉強だけ……」
振り返ると、ナミは勝手に冷蔵庫を開けて、中のドリンクを取り出した。
「ポカリとコーヒーしか入ってないじゃん。今度からダイエットコーラ入れておいてね」
そう言ってにっこり笑い、ポカリスエットの缶を開けて飲み始める。
「知るか!」
思い切り頭をがしがしとかくと、ナミは「出た〜」と笑う。
オレはがっくりと肩を落としてうなだれた。
「……何か問題起こしたら、追い出すからな」
「は〜い」
他人事のように返事をして、ナミは静かに参考書を開いた。

ふわりと揺れたオレンジの髪を後ろからぼんやり眺めながら、きっとオレはダイエットコーラを買いに行くんだろうな、と思った。

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