サマー・エレジー
SANJI x NAMI x ZORO
3rd Tune 「ゾロとサンジ」
沈黙を破ったのは私の方からだった。
「もしもし、ゾロ? 久しぶり!」
「……ナミ?」
「ねえ、聞いてよ。私、あんたと同じ大学受かっちゃった」
「あァ? ……どこ?」
「英文」
「学科は?」
「米文化」
「へェ……第一志望変わってなかったんだな」
「よく……覚えてたね」
「まァな」
大学の話なんて、一度か二度しただけなのに。
「何お前、G大の英文なんて狙ってんのか? 判定C? オイオイ大丈夫かよ」
「うるさい! まだ1年あるから大丈夫よ!」
まだ楽しかった頃の夏のある日。模試の結果に落ち込む私と、それをからかうゾロ。
「あんたは何でそんなに成績いいのよ? 剣道バカだし、寝てばっかりのくせに!」
「もとの作りが違うんだ、バカ」
「バカにバカって言われたくない」
「何ィ? バカはてめェだろうが!」
ざわざわと人の声がうるさい、午後のマック。
「……まァ、がんばれよ」
「言われなくてもがんばるわよ、バカ」
「へっ、そうかよ」
ゾロの第一志望がG大の工学部だって知ったのは、そのすぐ後だった。
「よかったな」
ゾロの意外な言葉に、ちょっとだけ切なくなった。
「でね! 私一人暮らししようと思ってさ、アパート探したいんだ」
「あァ? だってお前んちからなら宅通できるだろうが」
自宅から大学まで、電車で1時間。自宅が駅から近い私には、特に問題のない距離。
ゾロは学区の端も端。隣の学区との境目みたいなところに住んでいたから、ゾロの自宅から大学までは電車で2時間半かかる。
「だってー、終電気にして遊んだりするのイヤだし」
「あのな……」
「それに、一人暮らしって一度やっておいた方がいいじゃない? 料理だってできるようになるしさあ、経済観念も身につくでしょ?」
「……そう言って親を説得したんだな、おめーは」
「あ、わかる?」
「わからいでか」
そんな感じでゾロを引っ張りだして、アパート探しをした。
「オートロックで、バス・トイレは別。ベランダがあって、床はフローリング。ロフト付きで2階以上で、家賃5万以内!」
「アホか!!」
当然のことながら、私の希望どおりの部屋は見つからず、歩き疲れて二人ともぐったりしてやってきたゾロのアパート。
「入居者募集……102号室、203号室」
「あァ、確か隣に同じ大学の4年のヤツがいるな。来週部屋を出るらしい」
「へえー……」
そのとき、私が何を考えたかっていうのは、ご想像どおりなわけで。
「私、ここにしよっかな」
「あァ!? 全然おめーの条件にハマってねェぞ? せいぜい家賃4万9000円ってとこだけだ」
「決めた! ここにする」
「おいナミ! 言っとくが、この辺は飲み屋も多いし、街灯も少ねェから夜は危険だ。女がひとりで住むにゃあんまりいい環境じゃねェ」
「大丈夫よ! だってホラ、あんたが隣だったら何かあっても助けてもらえるし?」
「ふざけんな!」
「もう決めたもーん!」
その後すぐに、喜々として不動産屋へ行ったのは言うまでもなく。契約書を受け取っている私の隣で、ゾロは頭をガシガシとかきながら、大きなため息をついていた。
住み心地はまあ、悪くないかな。私が入居する前にリフォームされたお陰で、壁もトイレもお風呂もキレイだし。西陽の暑さはどうしようもないとしても、思っていたよりは快適。リフォーム前の部屋に住むゾロ
はちょっと悔しがってる。
ゴールデンウィークが明ける頃まで、隣に住んでいてもゾロに会うことはなかった。入学してすぐの頃は新入生歓迎イベントやらなにやらで、外出することが多かったし、4月の終わり頃にはもうサンジ君と一緒にいたから、デートしたり、サンジ君の部屋に行ったりしてた。だから大学に来て、ようやくゾロに会えたのは5月も半ばだった。
ゾロは結構真面目に大学に行ってるみたいで、日中はもちろん部屋にいないし、夜だって剣道の練習か、それがなければバイトしてるみたい。
ときどき偶然に帰りが一緒になったら、「飲むか?」とゾロから言ってくれたり、ゾロの部屋の明かりがついているのを確認してから、私が奇襲をかけて「飲も!」と上がり込んでいったり。そんな感じ。私もゾロも果てしなくお酒には強いから、普段周りに合わせてセーブしている分、二人の時は思いっきり飲みまくる。
今の関係を言葉にするなら、「飲み友だち」かな?
ある日の夜遅く、私がコンビニに行こうと歩いていたら、ゾロが剣道の練習を終えて自転車に乗って帰ってきた。すれ違うときに「お疲れ」と声をかける。「おう」と言ってジャージ姿のゾロが通り過ぎると、汗の匂いを含んだ追い風がやってくる。高校の頃を思い出す。キスをしたあとに抱きしめてくれたゾロの匂い。今も変わらない。
「おいナミ」
「えっ?」
振り返ると、防具を背負って自転車にまたがったまのゾロがいた。
「こんな時間にそんな格好で出歩くな。危ねェだろ」
キャミソールにミニスカート。
「うるさいなぁ」
そう言ってスタスタと歩き出す。コンビニの入り口でもう一度振り返ると、遠巻きに自転車を止めて、防具を下ろしたゾロが眉をつり上げて「早くしろ」と言う。
私はあえて、普段なら素通りする陳列棚の前で足を止める。ガラスの向こうで腕を組んでイライラしているゾロを見て笑いながらゆっくりとレジに向かう。絶対に待っててくれるの、わかっているから。
缶コーヒーをひとつ、ゾロのために買ってから、店を出た。
こういうぶっきらぼうだけど優しいところ、変わってないんだ。
「お前、しょっちゅう夜中にコンビニ来てるだろ?」
アイスバーを舐めながら歩いている私の少し後ろから、ゾロが自転車を引いて付いてくる。
「うるさいなあ。あんた私の保護者?」
「もうちょっと時間考えて外に出ろ」
「あーうるさいうるさい……って、何であんた私が夜中にコンビニに行ってること知ってんの!?」
立ち止まって振り返ると、ゾロは呆れた顔で大きくため息をついた。
「あそこはオレのバイト先だ、アホ」
アパートの近くにはコンビニが3つ。駅に向かう途中のローソンとセブンイレブン。そして大学とアパートを結ぶ通り沿いにあるファミリーマート。ゾロはすぐ
アパートから歩いて5分のファミマでバイトをしている。
「ウソ……知らなかった。だって一度もいたことないじゃない」
「お前、よく水曜に来るだろ? 水曜は練習の日だから、オレはバイト入ってねェんだ」
「でも何で知ってんの?」
「水曜深夜のバイトのヤツがいつも言ってんだよ。オレンジの髪の女が来るって」
「だから……なんでよ?」
よくわからずに問い続けると、ゾロはチッと舌打ちして目を合わせずに言った。
「ったく……目ェ付けられてんだよ! それくらい気づけ、バカ!」
それを聞いて、なんだか気持ち悪くなって、深夜のコンビニには行かなくなった。
サンジ君が私の部屋に来るようになったのはちょうどその頃だったかな。
「ナミさんっ! オレ今そこですっげぇかわいい子見たよ。青くてふわっふわの長い髪でさあ。制服着てたから高校生なんだろうなー。かわいかったなー」
部屋のドアを開けるなり、サンジ君は今来た方向に体を反らせながら振り返って言った。
「高校生? 手ぇ出したら犯罪よ」
眉をひそめて、目の前のゆるんだ顔を見上げると、サンジ君は歯を見せてニッと笑った。
「大丈夫、男と歩いてたから」
はっとして、私がフイと顔を背けると、後ろ手でドアを閉めたサンジ君がすぐ側に立っていて。
「ヤキモチ?」
ニヤニヤしながらそう言って私にキスをした。
夏の気配が漂い始めた5月の半ば。
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