サマー・エレジー
SANJI x NAMI x ZORO
3rd Tune 「ゾロとサンジ」 2
サンジ君は私の部屋から2駅先、大学を挟んでちょうど反対側のアパートに住んでいる。
一日のほとんどの時間をオーケストラの部室で過ごし、学内で見かけるときは、たいていエースとつるんでる。火曜日以外はオーケストラの練習があるから、私の部屋に来るのは火曜日。もちろん、火曜だけってことはまずありえないけど。電車に乗ればすぐの距離を、サンジ君はわざわざ歩いてやって来る。なんでかはわからないけど、30分以上の距離をのんびり歩いてやって来る。
キレイにアイロンのかかったカラフルなシャツと中のティーシャツの色をちゃんとコーディネートして、カーキやオリーブの
カーゴパンツを履いていることが多いサンジ君。素足にモカシン、白いズックのショルダーバッグを肩にかけ、シトラスのコロンの香りをまとってやってくる。育ちの良さをちょっと感じる。
「ナーミさん! 長崎のフルーツ大福持ってきたよ〜。後で一緒に食べようね!」
そう言ってクール便の発砲スチロールの入れ物から、白い箱を出して冷蔵庫に入れる。その後、バッグの中から何か取りだして、それも一緒に冷蔵庫の中に入れていく。
「何入れてんの? それも食べ物?」
「ん? ゴムの買い置き〜。ナミさんちにも置いとかないとねっ」
くわえタバコで、ヘラヘラと笑う。
「ちょっと! 人んちの冷蔵庫になんてモン入れてんのよっ!!」
「えー、だって、ないと困るでしょ?」
「そういう問題じゃなくって!」
「すぐ使い切るからだいじょーぶ!」
「バカッ!」
そして、ショルダーバッグを肩から下ろすやいなや、抱きついてくるサンジ君。とりあえずの1回。
「あーっ、もう。いったいどんな顔してそんなもん買ってんのよ?」
「ん? フツーにタバコとコーヒーと一緒に」
「レジ打つ方はたまったもんじゃないわね……」
コンドームの箱を山積みにしてレジに持ってくる男なんて、きっと世の中でこの男くらいだわ。
嬉しそうに、鼻歌なんか歌いながらレジに向かうサンジ君が目に浮かぶ。
その翌朝、ちょうど部屋を出るサンジ君
とそれを見送る私がキスをしているところへ、バイトから戻ってきたゾロが眠そうな目をこすりながら階段を上がってきた。
「ん、んーっ!」
あまりにも長いキスに耐えかねて、私がもがきはじめると、サンジ君はやっと唇を離してくれた。
自分の部屋のドアに手をかけたところで、思わず立ち止まってこっちを見ていたゾロに気づいたサンジ君は、「あぁ」と平然と言うと、もう一度私に軽くキスをした。
「じゃあね、ナミさん」
私に背を向けてタバコに火を点ける。
「オッス、マリモ君」
すれ違いざまにゾロの肩を1回ポン、と叩くと、振り向かずに手を振って階段を降りて帰って行った。
「あのグルマユゲ……お前の男?」
かなり不機嫌そうな顔で、
私を睨むと、ゾロも部屋に入っていった。
授業ではよくレポートの課題が出される。試験よりもレポート重視の私の学科では、とにかくレポートの出来にすべてがかかってくる。だから気合いれて書かなきゃいけないんだけど、そういうときに非常に困るのが一匹、いるわけで。
テーブルにテキストやら辞書やらを広げて、ノートパソコンのキーをカチャカチャ鳴らす。十分に釘を差しておいたので、サンジ君は一応はおとなしく、雑誌を読んでいた。
タバコをくわえ、右手で頬杖をつきながらうつ伏せになって足をパタパタしている。左手が私の腰に回されているのは、まあ許すとして。鼻歌を歌いながら、左手の指をトントン動かし、
腰を上下にさすってくるのは、おそらくチェロの指遣い。まあ、それもギリギリで許すとしよう。いちいち言ってたらキリがない。
でも、何も言わないと調子に乗るわけで。気がつけば背中にぴったりとくっついて、服の裾から手を入れようとしているサルが一匹。
「……ちょっとおにーさん、ワタクシ英語のお勉強してるんですけど?」
「オレは保健体育のお勉強してマス」
「バカ」
「レッツ・メイク・ラブ、ナミさん」
「ノーウェイ!」
と言いつつも、あっけなく押し倒されている私。
「もう、何でこんなのが経営にいるのか不思議」
G大の経営学部と言えば、G大の中でも偏差値はトップクラス。
進学校の中でもかなり上位にいないと、入るのは難しいって言われてるのに。
「オレ、高校んときはガリ勉君だったんだよ?」
「ウソぉ」
「ホントホント。男子校だったし、全然色気なかったよ」
「それが何でこうなっちゃったのかしらね」
「へへ。こっちが本性なの」
すでに服を全部脱いだ状態で抱き合っていると、カンカンと階段を上がってくる音がして、私とサンジ君は一瞬息を飲む。
耳を澄ますと、鍵穴に鍵を入れる音、ドアノブを回す音、ドアが閉まる音がして、最後にカチャン、と内側から鍵をかける音がした。ギシギシと床の上を歩く足音が振動となって背中に響いてくる。
ゾロが帰ってきた。
私とサンジ君がこうしているときに、ゾロが部屋に戻ってきたのは初めてのことだった。
「さあて、リスナーもいることだし、がんばりますか!」
そう言ってニヤリと笑うサンジ君。
「バカッ! マゾッ! 変態っ!」
「残念。オレどっちかってーと、サドなの。ナミさんのことじらすの上手いっしょ?」
「どっちにしても変態よ、このサドマゾッ!!」
サドだろうがマゾだろうが変態だろうが何だろうが。
一回その気になったら、もうダメ。この男ったら止まらない。
「ナミさん……気持ちい? もっと声出していいよ?」
自分の下で声を荒げる私を、涼しい顔で見下ろしているサンジ君。
「あっ、サンジ君っ……、ちょ、ちょっと待って、待ってぇ……」
ゾロが隣の部屋で聞いてるかもしれない、と思うと、何だか変な気分になって。いつもにも増して大きな声を出していることに気づいた。
「イッちゃいそ? でもまだダメ、イカせない。だってオレ、サドだし?」
「バカぁ……」
いったい、私はこの男に1日何回バカって言ってるんだろ。気がつけばゾロのことなんてとっくに頭の中から消え去っていた。
でもね、ゾロ。あんたの昔の彼女は今隣の部屋でこんなことしてるのよ?
何も思わないなんてことは……ないでしょ?
「ったくうるせェぞ、てめェら!」
次にゾロに会ったときの開口一番がそれだった。
「やだ、あんた聞いてたの? 悪趣味〜!」
「イヤでも聞こえてくんだよ! 誰が聞きたいかってんだ」
「壁が薄いんだから、我慢しなさいよ」
「サカり過ぎだ、あのクソマユゲ。あいつに我慢させろ」
「……ねえ、あんたたち知り合いなの?」
「あァ!?」
ふざけんな、と言わんばかりの顔でゾロが私を睨んだ。
「だってこの間サンジ君があんたに挨拶したじゃない?」
「……サンジっつーのか、あのグルマユ」
ゾロは何かを思い出すかのように、目を鋭くさせて口を曲げた。
「何? 知り合いじゃないの? サンジ君はゾロのこと知ってるみたいだったけど?」
「知ってるも何も……」
大きなため息をひとつついて、ゾロは頭をがしがしとかいた。
「あいつ、いつもオレがバイトの日に来てタバコ買ってくヤツだ」
そういえば、大学から私のアパートまでの間にあるコンビニは、あのファミマ1軒だけ。ゾロがバイトに行く火曜日。サンジ君が私の部屋に来る火曜日。
そんな場所で二人が顔を合わせていたなんて。
「まあもちろん……タバコだけ、ってわけでもねェけどな」
そう言ってゾロはニヤっと笑った。
「あんたのその頭、マリモみてえ」
ゾロが無表情でコンドームの箱のバーコードをひとつずつ読み取っているときに、サンジ君はゾロに向かっていきなりそう言ったらしい。ゾロが言ってた。
「店長、このサカってるグルグルマユゲ、殴っていいっすか?」
品物の入ったコンビニ袋をサンジ君に渡そうとせず、ゾロはサンジ君に指を突き立ててそう言ったらしい。サンジ君からそう聞いた。
「あんたバカ? なんでそんなことでゾロにつっかかるのよ?」
呆れてサンジ君を問い詰めると、サンジ君は少し口を尖らせて反論した。
「何か見ててムカつくんだよなー、あのマリモ頭」
「それって子供のケンカ以下じゃない」
「だってムカつくし」
「あのねえ……」
「よく考えたらさー、あいつなんだよね」
「……何が?」
「ホラ、オレがこの間見たすっげぇかわいい高校生! あの子と一緒に歩いてたのがあのクソマリモなんだよな。チクショー、ムカつく! マリモのくせにっ」
青いふわふわの髪の女の子って、ビビのことだったんだ。
ビビ……ゾロに会いに来てるんだ。
やっぱりまだ続いてるんだ、あの二人。
「でも、もちろん一番かわいいのはナミさんだけど?」
フォローするようにそう言ってサンジ君は私をぎゅっと抱きしめた。
「とにかく最初っからあのマリモが気に食わねーんだな、オレは。ナミさんの隣人と知ったらなおさらムカつく!」
「やっぱり本能なのかしら、サルだけに」
「ん、何が?」
「……元カレなんだよね、アイツ」
サンジ君は「へぇ」とだけ言って、そのまま話は終わった。6月の初め、梅雨入り前の少し肌寒い日。
「オッス、マリモ君。最近かわいい彼女見かけねーな。振られたか?」
「てめーは最近アレ買わねェな。ナミにやらせてもらえねェのか?」
「へっ!
ひがむな、クソマリモ! マルボロ、ボックス!」
「あァ? 当たるな、グルマユゲ! いくつだよ?」
「5つ」
「……1500円」
私の知らないところで週に1度は交わされる会話。
ゾロとサンジ君の奇妙な関係。
4thTune