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サマー・エレジー

SANJI x NAMI x ZORO


4th Tune 「ゾロ」


ナミさん元気ですか?

僕は今、美瑛に来ています。
東京ではペーパードライバーだったけど、こっちでは毎日車に乗っています。
北海道の道路は広くてまっすぐだから、ついつい飛ばしてしまいます。
今日は高校の仲間と一緒にここに来ました。テレビでよく見る美瑛の景色は、
やっぱりテレビと同じです。この絵はがきの景色も、実際に見てもやっぱり絵はがきの通りです。
でも、きれいな景色には変わりありません。ナミさんにも見せてあげたいです。
夏休みということもあって、レストランの方は毎日大忙しです。
僕も、早朝から深夜までずっと厨房でこき使われています。あまりチェロを弾く時間がありません。
市内のオーケストラの練習に参加させてもらうことにしましたが、行けるかどうか。
大学に戻ったらすぐに秋の定演なので、ちょっと焦っています。
ナミさんは夏休みには何をして過ごしていますか? 良かったら北海道に遊びに来てください。
連れて行ってあげたいところがたくさんあります(家の手伝いもさぼりますから)。
会いたいです。

0809  美瑛にて   サンジ


「……ありえない」
元気ですか?? 僕??? 一体このハガキは誰から届いたものなの?
ですます調のサンジ君からのはがきに、かなりの衝撃を受けて、私は郵便受けの前で動けなくなった。
ちょっと丸っこくて、右上がりだけど男のわりにはきれいな字を書く。
レストランの手伝いのこととか、チェロの話はとっくに電話で聞いてたけど。

「会いたいです」の文字にちょっとだけドキっとした。


「……おいナミ」
ぬっと後ろからゾロが現れて、思わず「うわあっ!」って声を出して驚いた。
「何してんだ?」
呆れた顔で私を見下ろすゾロに、サンジ君のハガキを見せた。
「……へェ……」
私の手からひょいとハガキを取り上げて、ゾロは表と裏を交互に眺めた。
「らしくねー文章だな。気持ち悪りィ」
「やっぱりそう思う?」
「その割にゃ、嬉しそうじゃねェか?」
ゾロは少し笑って言った。
「……まあね」

「あァ、お前、盆は帰んねェのか?」
「ん? 13から18まで実家に戻るよ」
「集まりにも出るんだろ?」
「あ、うん。そういえば連絡来てたっけ」
毎年お盆になると剣道部の「集まり」がある。現役生と卒業生が集まって親睦を深める……要するに「飲み会」ってこと。
「そういえば、去年あんた来なかったわね」
「あァ……墓参りに行ってたんだ」
「……例の幼なじみの女の子?」
「あァ」

昔ゾロがちょっとだけ話してくれた。小さい頃に交通事故で亡くなったという「親友」のこと。同じ道場で剣道をやっていた、ゾロの一番のライバル。
「……ふうん。やっぱりそっちの方が集まりより大事よね」
別に嫌味で言ったわけじゃなかったけど、私のその言葉にゾロは何も返さなかった。

去年の集まり。
久々に会うゾロに普通に話しかけられるように、って。
ゾロとビビが並んでいるのを見ても平気でいられるように、って。
気合い入れて、ドキドキしながら待ってたのに、ゾロは来なかった。
誰かがビビに「ゾロは?」って聞いたら、ビビは遠慮がちに「来られないそうです。でも、冬には絶対に顔出すって言ってました」と答えた。
ちょっと泣きそうになった。
冬の集まりには私が行かなかった。センター試験も近かったし、受験勉強で参ってる状態で、平気なフリなんてできないってわかってたから。本当は会いたかった。会いたくて会いたくてたまらなかった。

だから、決めていたの。大学に合格したら電話しようって。

「直接行くのか?」
「うん」
「……じゃ、一緒にこっち出るか」
「え?」
先に階段を上り始めたゾロに続いて私も上る。ふぞろいな足音が響く。
「あんた、乗り換えが心配だから、私にナビさせるつもりでしょ?」
「あァ!? んなわけねェだろっ!」

……実は半分図星らしい。
ゾロは極度の方向音痴で、行き先違いの電車に乗ることもしょっちゅうある。高校時代は電車1本で学校まで来ていたけど、ここから高校に行くまでは地下鉄に乗って、JRに乗り換えて、さらに快速から各駅停車に乗り換えなきゃいけないから、ゾロにしてみればそれはそれは大冒険なわけで。
ゾロが大学に入って間もない頃、トンデモナイ駅に降りてしまったゾロが、結局そこからタクシーでアパートに戻ってきたという話を、誰かから聞いた気がする。タクシー代は万を越えていたとか。


「ナミ、行くぞ」
よく晴れたお盆の初日、デイパックを肩にかけたゾロが私の部屋をノックした。
「あんた、なんでそんなに荷物少ないの?」
「あァ? 実家に帰るんだろ? 旅行に行くわけじゃあるめーし、なんでそんなでっけェバッグ持ってんだ?」
「課題がいっぱいあんのよ! 図書館で借りた本とか、パソコンとか入ってんの!」
「ったく……」
ひとつため息をついてゾロは頭をがしがしとかいた。
「貸せ」
そう言って私のバッグを奪って階段を下りていった。
「ちょっと! 落としたりしないでよね!」
ああ、もう、素直に「ありがとう」って言えばいいのに。

数歩遅れて、ゾロの後ろ姿を見ながらついていく。
高校の頃、部活が終わって一緒に帰るときもそうだった。ゾロは絶対に手なんて繋いでくれない。
でもその代わり、駅に向かうまでの道のりを、ゆっくりゆっくりと歩いてくれた。
「腹減った」ってゾロが立ち止まったら、駅前のマックに入って。親から電話がかかってきて、時計を見ると夜の9時を過ぎてたり、ってこともしょっちゅうあったな。

「腹減った」
ゾロが突然立ち止まったから、ぼんやりしていた私はその背中にぶつかった。
通りの反対側にある、吉野家。
「お前、昼メシは?」
「ん? まだ」
「……食ってくか」
そう言って、ちょうど青に変わった横断歩道をゾロはスタスタと歩いていった。

「あんた、あんまり自炊してないの?」
「あァ、ほとんどしてねェな」
「食費かかるでしょ?」
「そうでもねェぞ? コンビニの残りもんとかもらえるしな」
「ふうん」
牛丼にがっつくゾロは昔とまったく変わらない。特盛をものすごい勢いで、口をいっぱいにして真剣な顔で食べている。
「牛丼なんて、久しぶり」
サンジ君はこういうところ、絶対に入らないからなあ。「ファストフードってなんかエサっぽいじゃん」って言ってたな。 一度スローフードの何たるかを説説と語っていたことがあったけど、「要するにゆっくり食べればいいんでしょ?」って言ったら、「ちっがーう!」ってムキになってた。

すぐそばで、ゾロは「エサ」をほおばっている。
「おいしい?」
「あァ? ……腹がふくれりゃいい」
「味は二の次なわけね」
「うるせェな。いっつも何食ってんだ、お前?」
ごはんはほとんどサンジ君が作ってくれる。和食、フレンチ、イタリアン、中華料理からタイ料理まで。
デザートもついて、おいしいお茶まで入れてくれる。至れり尽くせりなのよね。
「っていうかお前、得意料理とかあんのか?」
「カレー」
「んなもんオレでも作れるぞ、バカ」
「うるさい」

エサの摂取は15分で終了。
満腹なのに、何だか満足感がない。
電車を待つ間、ぼんやりと考える。


サンジ君の作ったオムライス、食べたいなあ……。


えっち……したいなあ。


 

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