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z*1/2


サマー・エレジー

SANJI x NAMI x ZORO

4th Tune 「ゾロ」 2


「ナミさん、ナーミさんっ、んナミっすわ」

ピッ!

……バイブにするの忘れてた。
車両内にいるほとんどの人が私の方をじっと見ていて、何が起こったのかという顔をしている人から、ボソボソと笑いながら何か言ってるカップルまで。
「恥ずかしいヤツ……」
隣に座っているゾロが笑いをこらえている。
「うるさい!」
その声にまた視線が集中した。ゾロはクックッ、と声を殺しながら笑っていた。


”オレのこと恋しい? これで元気出してね!”


「何言ってんのよ……バカ」
添付されていた画像を開くと、風に吹かれて髪をなびかせて、タバコをくわえてけだるそうに笑っているサンジ君がいた。ピンクの派手なアロハシャツも、妙に似合っていた。
いっつもヘラヘラしてるけど、こうやって見るとかっこいいんだなあ、なんて思った。口元が笑いそうになったけど、また変な目で見られそうだったからちょっと眉をひそめてごまかした。多分それも変な顔だったと思うけど。

返信画面を開く。


”ちょっと元気になったよ”


そこまで打って、思わずゾロを見た。目を閉じて眠っているゾロの横顔。ピアスが揺れてキラリと光った。
画面をしばらく見つめて、すべてをクリアした。
これじゃあ「恋しい」って言ってるのと同じだわ。


”変なシャツ”


そう打ち直して送信した。携帯を閉じる前に、ふと思い出してもう一通返信した。


"オムライス食べたい"



ゾロと二人で剣道場に入ると、すでに集まっていた先輩、同級生や後輩たちからどよめきが起こった。
「うおおーっ、ゾロ先輩! お久しぶりですぅ」
「ナミ、元気か?」
「まさか二人で来るとはなあ」
「ヨリ戻ったんすかぁ?」
「違うわよっ!」
大声で怒鳴ってから、すかさず剣道場の中を見渡してビビがいないことを確かめた。 ちらっとゾロを見ると、ゾロも同じように剣道場の隅から隅までを眺めまわしていた。ビビは来ていない。
誰かが補足するように言った。
「バカ、お前。ゾロにはビビちゃんだろーが」
「えっ! この人がビビ先輩の……」
ゾロを知らない現役生の声が聞こえても、ゾロは無表情のまま立っていた。

「お前ら、同じ大学だったな、そう言えば」
「そうよ! ゾロが迷子にならないようにここまでナビしてあげたのよ。ナビ代もらわなきゃ」
私がそう言うと、大きな笑い声が剣道場に響いた。
そこにいた一人が私をフリーだと思い込んだのか、こう言った。
「でも、ナミお前もてるだろ? 男が寄ってきて困ってんじゃねーの?」
それを聞いたゾロが笑い出した。
「うるせーのがくっついてるから、誰も寄ってこねーよなァ?」
私が頬を膨らませてゾロを睨むと、周りがまた騒ぎ出した。
「なんだよ、もう男持ちかよー」
「写真とかねーのか?」
「見せろ見せろー」
しぶしぶバッグを開けて携帯を取りだした。別に「ない」って言えばそれでよかったんだけど。
さっき送られてきたサンジ君の写メールを「じゃじゃーん!」なんて言いながらみんなに見せた。

「おおーっ! 男前だあっ!」
「ナミの男だってー!」
あっという間に携帯は私の手を離れて、その場にいる全員にリレーされ、最後にゾロの手に渡った。
「……グルマユ」
そう言って画面を睨むと、パタン、と閉じて私の手に落とした。
「ねえ、ビビは?」
私がみんなにたずねると、隣にいたゾロが少し緊張したのがわかった。
「ああ、ビビ先輩は予備校の夏期講習があって、今年は来られないそうです」
知らない顔の現役生が答えた。思わずゾロの顔を見た。

ゾロは伏し目がちにため息をついて「来ねーのか……」とつぶやいた。

ねえ、ゾロ。
あんたの今の気持ち、すっごくよくわかるわよ?


夜通し行われる飲み会。酒に免疫の少ない現役生たちは早くに潰れ、剣道場に川の字に並んで寝ている。
久々の体育会系の飲み会に、私も勢いづいて飲み比べなんかやってみたり。次々とぶっ倒れていく男たちを横目に、まだまだしらふの私。
「……結局最後に残ったのは、あんたか……」
「とことん強ェな、お前は」
潰れた男たちの山を見てため息をついて、ゾロは日本酒を飲んでいた。
「飲み比べ、する?」
「あァ?」
「自信ないの?」
煽るようにそう言ってみたけど、ゾロは何も言わず、そこらに残っていたお酒とかおつまみとかを集め始めた。
「……飲み直そうぜ」
そう言ってゾロは剣道場を出ていった。

澄みわたった空には、満天の星がきらめいていた。
あのときと同じシチュエーション。
とくに交わす言葉もなく、静かにお酒を飲み続けた。
ぼわっとした生ぬるい風に吹かれていると、酔っていないはずなのに、なんだか頭がボーッとしてきた。

「ねえ」
前を向いたままゾロに呼びかけた。
「……あァ?」
「覚えてる? ここであんた、私を襲ったのよ?」
「あァ!?」
ゾロが声を荒げても、私はずっと前を向いたまま。
「覚えてないの?」
「……覚えてる」
「へえ、覚えてるんだ」
ちょっと嫌味っぽく言ってやった。
「……忘れるかよ」
その言葉に、少し胸が苦しくなった。

「……ねえ」
「あァ?」
「あのときさあ……あんた、私のこと好きだったからキスしたの? それとも、ただのノリ?」
ゾロは黙り込んだ。
「別にいいじゃない、昔のことなんだから」
それでもゾロは何も言わなかった。


生ぬるい風が吹いて、またしばらく何も言わずお酒を飲み続けた。

「去年……来なかったのは」
「ん?」
長い沈黙をゾロが破った。
「別に墓参りなんていつでもよかったんだが」
「だって、大切な幼なじみなんでしょ?」
「……あァ」

「ちょっと……自信、なかった」
「ん? 何が?」
初めてゾロの方を向いて聞くと、ゾロの頬は少しほてっていた。これだけの量で酔うはずなんてないのに。ゾロも、この風のせいでボーッとしてるのかな。それでもゾロは前を向いたまま言った。
「お前に会って、普通に接する自信が、なかった」
「は……何、言ってんの?」
心臓がドキドキし始めた。
「だって、あのときあんたはビビと……」
あのとき、ゾロはビビとつき合っていたじゃない。ゾロの横顔を見つめながら次の言葉を待った。

「あのころ……ようやくビビを大切だと思うようになってきていて。でも、まだ自分の気持ちがわからなくて……」
こんな風に自分のことを語るゾロなんて、初めて見た。この、変な風のせいかしら?
「だから……お前に会ったら、また気持ちが揺らいでしまうんじゃねェかって……自信がなかったんだ」

じゃあ何? もしもあのときゾロが来ていたら、私に会っていたら、
……ゾロは私のところに戻ってきてくれたかもしれなかったの?

「だから来なかった」
はっきりとした口調でゾロが言った。
「……ビビへの気持ちを優先したんだ?」
「あァ」
こんな風に思ってもらえるビビが心からうらやましい。
でも、もうビビとは別れたんでしょ?

「じゃあ……今は?」
今、私を目の前にして、あんたはどう思ってるの?
ゾロは前を向いたまま、また黙り込んでしまった。

「ね、ゾロ」

私の呼びかけに、ゾロはようやく私の方を見た。
「あのとき、私は嬉しかったよ? だって、ゾロのこと好きだったもん」
抱えた膝の上に頭を置いて、ゾロを見上げるようにして私は笑った。
「去年の集まりだって……私、あんたが来るのを待ってたんだからね?」

生ぬるい風が強くなった。頭がぼんやりする。

ゾロは私の肩を引き寄せて、顔を近づけてきた。
ゆっくりと閉じていく緑色の瞳と、緑色の短髪、耳のピアス。その向こうに広がる満天の星。
剣道場の明かりだけが夏の夜空に滲んでいて、視界のほんの片隅で小さなランプのように見えた。
そして私も目を閉じた。

あのときと同じシチュエーション。



ひとつ、ゾロが昔と違うことがあるとすれば、
キスがずっとずっと上手になっていたことかもしれない。



5thTune