サマー・エレジー
SANJI x NAMI x ZORO
5th Tune 「サンジ」
アパートに戻った日は、この夏一番の暑さだったらしい。
扉を開けると、むうっとした空気が流れてきて、入るのもイヤになるくらいに熱がこもっていた。
窓を全開にして、扇風機を最強にしても、汗はだらだらと流れ落ちてくる。
「あーっ、もうっ!!」
汗を拭うことも面倒になって、その場に倒れ込む。
イライライライラ……
聞こえないはずのいらだちが音になって頭の中をかけめぐる。
荷物は重いし、電車では座れなかったし、乗り換えの待ち時間はやたらと長いし。
おまけに生理痛で貧血気味。そしてこの暑さ。もう最悪。
扇風機の風を真正面から浴びながら、ぼんやりと隣の部屋につながる壁を見る。
ゾロは今、合宿でいないんだっけ。
目を閉じて、思い出す。何度も何度も反芻する、ゾロとのキス。
唇を離した後はふたりとも何も言わずに空を見上げて、お酒を飲んでいた。
ゾロが立ち上がって剣道場に戻ろうとしたから、私も黙ってついて行った。
高校の時と全く変わらないシチュエーション。
きっと、この後も私とゾロの間には何も起こらない。そう思った。
「何にも変わんない……」
期待しない方がいい。うん。
期待したって、多分ゾロは応えてくれない。
辛いのはもう、いやだもん。
だから、これで満足しよう。
あのとき、少しでもゾロが私のことを気にかけてくれていたってことがわかっただけで、満足。うん。
それでいいや。だって、私には……。
タラララン、タラララ……
ドキっとして起きあがる。携帯を開くと、画面の中でサンジ君が笑っていた。
「エレジー」は鳴り続ける。私はいつも留守電にしないから、それはずっと鳴り続ける。
携帯が2回目の「エレジー」を演奏し始めてようやく私は電話に出た。
「……もしもし?」
「あ! ナミさん、もしかして寝てた? オレ、起こしちゃったかな? ごめんね」
「ううん、大丈夫。ちょっと携帯から遠いところにいただけ……」
「ホント? 良かった〜」
そうしてサンジ君は今日一日起こった出来事を楽しそうに話し始めた。
「でさ、その客がムカつくもんだからさぁ……」
お腹、痛い。
「そしたら、オヤジがキレてね、そいつに……」
サンジ君の声が頭にワンワン響く。
「……もう大変だったんだよ……ナミさん? 聞いてる?」
普段の半分もあいづちを打たない私を不思議がって、サンジ君が尋ねてきた。
「聞いてるけど……」
「けど?」
何故か、その聞き方がイヤで、私は不機嫌な声を出す。
「……サンジ君のお店の話聞いたって、つまんない」
一瞬だけ、沈黙があったような気がした。でもすぐにまたサンジ君は大きな声で話し出す。
「なあんだ、ナミさん。オレに会えないから、すねてんでしょ?」
「……そんなんじゃないわよ」
「はは。素直じゃねーの」
「違うって」
イライラ。
「本当はこっちに来たいんでしょ?」
「別に」
イライラ。
「またまたー。オレに会いたいくせに〜」
「何うぬぼれてんの」
イライラ。
「ナミさんリクエストのオムライス、作るからさぁ。おいでよ〜」
「だって、交通費高いもの」
イライライラ。
「んー、じゃあオレが出そっか? もちろん、タダじゃねーけど?」
「何よ、それ」
イライライライラ。
「その分、カラダで払ってもらうからね!」
「……」
プチッ。
もう、限界。
「……サンジ君さあ……」
「ん? なに?」
「私のこと、好き?」
今度はしっかりと沈黙の時間があった。電話の向こうで、サンジ君は今どんな顔してるんだろうって思いながら、次の言葉を待った。
「はは……ナミさん、相当オレが恋しいみたいだね」
「ねえ、好き?」
間髪を入れずに聞き返した。
「あー、もう重症だね〜」
「ねえってば。私のこと好きって聞いてんの!」
「アンニュイなナミさんもいいな〜」
「真面目に答えてよ?」
「オレ、いつも不真面目だから」
サンジ君の最後の答えを聞いて、私は何も言わずに電話を切った。電源も落として、携帯を遠くに投げた。
イライライライラ……
何で? 何ではぐらかすのよ?
一言、言えばいいだけじゃない。私のこと「好き」って。
そうしたら私だって……。
私だって?
……私は、どうなのよ?
あんたは、誰が好きなの?
ゾロ? それとも、サンジ君?
……ゾロなんて、全然優しくなんてしてくれないし、自分勝手だし自分優先だし、大事な事を言葉どころか態度にもしないし、一緒にいても不安ばっかり。
サンジ君だって、いっつもサカってベタベタしてくるくせに、何かふわふわしてつかみ所ないし、浮気はするし、歯の浮くような事だって平気で言うくせに、なんかウソっぽいし。一緒にいても呆れてばかり。
でも。
ゾロといるとドキドキする。
サンジ君といると安心する。
私は……どっちが好きなのかなぁ。
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