夢みてえだ
でも、夢じゃないんだってナミさんが言うし
事実、腕ん中にはナミさんがいる
ナミさんは小さくて、オレの腕の中にすっぽりと収まって震えていた
「……まだ、信じらんねえ……」
どれだけナミさんを抱きしめても、次の瞬間にはいなくなってしまいそうで、また強く抱きしめる。
オレの胸に顔を押しつけて、ナミさんは震えている。ナミさんが息をするたびに、ちょうどオレの心臓の上にあるその部分だけが熱くなる。
目の前にあるナミさんの髪に顔をうずめて、甘い香りを吸い込むと、体から力が抜けそうになる。
ナミさんが、オレを好きだって言ってくれた
何度もつきはなされて
そのたびにあきらめようとした
でも、あきらめきれなかった
あきらめきれなかったけど、かなうことはないと思っていた
だから今、こんな近くにナミさんがいるのに
まだ不安で
すげえ嬉しいのに、すげえ悲しくなって
泣きたくなる
「ナミさん……好きだ」
ずっと言っていたのに
ずっと言えなくて
この言葉の本当の重さを
オレは知らなかった
「好きだよ」
胸の中でナミさんがうなづく
「……好きだ」
ナミさんの髪が、オレの鼻をくすぐる
「好きだよ、ナミさん」
このひとつひとつの「好き」の重みが
どうか伝わりますように
「……ううっ……」
ナミさんが絞り出すような声を出した
オレの胸に熱いものが広がっていく
「ふっ……あ……」
ナミさんの手が、オレのシャツを強く掴んでいた
「泣いてんの? ナミさん」
その言葉で、せきを切ったように声を出してナミさんは泣き始めた。
肩を大きく揺らして、オレのシャツを熱く濡らして泣いている。
ぎゅっ、と抱きしめて、子供をあやすようにしてナミさんの髪を撫でる。耳元に口を近づけてささやく。
「ナミさん、好きだよ」
何度も、何度も
壊れそうなガラスの花をひとつずつ並べていくように
真っ白な雪の上にゆっくりと足あとをつけていくように
くりかえす言葉
「……好きだよ」
* * *
サンジ君に好きだって言われるたびに
涙があふれだしてきて
心の中でずっと「ごめんね」って
サンジ君の優しさを踏みにじってた
それでも許してくれると思ってた
そしてそれを怖いと思ってた
ごめんね
「ナミさん、オレのこと、好き?」
体に熱い息を吹き込むように、サンジ君が私の髪に口づける
必死に声を絞り出す
「……すき」
サンジ君の腕に力がこめられる
「オレが、好き?」
「……好きよ」
みかんの葉がざわめいている
「もう一回、言って」
「好き」
耳元でささやかれる
「オレの名前、呼んで言って」
「……サンジ君が、好き」
前にもこんなことがあったね
サンジ君は覚えてないだろうけどね
私を胸からゆっくりと離すと、サンジ君は私の頬を両手で包み込んで、いつかのようにおでこをコツン、とくっつけた。
「もっと聞きたい」
「サンジ君が好きよ」
鼻と鼻を擦り合わせて、そのまま鼻の頭にキスをされた
「もっと」
「……サンジ君、好き」
鼻からおでこに唇を滑らせ、おでこに、キス
「……もっと」
「好きよ……」
今度はまぶたに、キス
一回の「好き」にひとつのキス
頬に まぶたに 耳元に おでこに 鼻に
髪に 指に 手首に
数え切れないくらい好きと言って
数え切れないくらいキスをされて
このまま溶けてしまってもいい
そう思った
「ナミー――――――……」
遠くでルフィの声がする
「サンジー――――――……」
ウソップも呼んでいる
抱き合って、おでこをくっつける
「戻らなきゃ、な」
そう言ったサンジ君の息は、ココナッツの匂いがした。
その瞬間、ベルメールさんのように、サンジ君もいなくなっちゃうんじゃないかって不安に襲われて、サンジ君の背中に腕を回して抱きついた
いかないで
サンジ君が私の髪を撫でて、そして優しくささやく
「大丈夫だよ、ナミさん。オレはずっと側にいるよ」
それでも私はサンジ君に抱きついたまま
「もう、ひとりにしないから」
すぐ目の前のサンジ君の顔がぼんやりと見える。笑っているのがわかる。
再び頬を包み込むように触れられ、少し顔を離すと、サンジ君の右目に映る私がいた。
「オレが、ナミさんの孤独も、悲しみも、恐怖も、ひとつひとつ溶かしていってあげる」
そう言って笑ったサンジ君の顔が、涙でにじんで見えなくなりそうになった。
ごめんね
私がそう言うよりも早く、
「……約束するよ」
柔らかい唇で、すべての言葉をふさがれた
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